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vol.23「自分が大切に思うこと」を追求した八濱さん。レストラン「癒しの森のAlice」に込められた思いとは「私と誰かにちょっといいこと」

兵庫県西宮市、北六甲の森に囲まれたガーデンカフェレストラン「癒しの森のAlice」は、英国風の庭と洋館で「不思議の国のアリス」の世界を楽しめると人気のお店です。

オーナーの八濱孝美さんは、約30年前、夫と4人の息子たちとともに、ご家族で移住されました。料理を楽しみたい妻とガーデニングをしたい夫。2人の「好き」を形にした場所には、「家族やお客様と過ごす時間を大切にしたい」という思いが込められています。

幼い頃の思い出から、移住とレストラン開店、そしてこれからの夢について八濱さんにお話を伺いました。
癒しの森のAlice

母が病床で読んでくれた「不思議の国のアリス」

――「不思議の国のアリス」との出会いについて教えてください。

私の母は体が丈夫ではありませんでした。ある日、母が入院していたときに「不思議の国のアリス」を病室で読んでくれたんです。その頃から「楽しいお話だな」「不思議だな」と思っていて、ジョン・テニエルの絵にも惹かれていました。

イギリスの洋館やイングリッシュガーデンにも憧れがあり、「自分が行きたいカフェ、コーヒーを飲みたい場所はどんなところなんだろう」と思い描いていたんです。
癒しの森のAlice 八濱孝美さん
――長年レストランを運営されていますが、お料理も昔から身近なものだったのでしょうか。

祖母と母と一緒に夕食を作るのが日課でした。昔ですから、梅干しやお味噌、醤油づくりなど季節の手仕事を、当たり前に家庭でしていたんですね。

昔は「女の子は料理ができれば幸せになれる」と言われていて、病床にいた母も、私が幸せになれるようにと願って、いろいろなことを教えてくれていたのでしょう。

子どもの頃は、夕食を作るために夕方5時までに帰らないといけないのが不満でしたが、今なら、「きちんと食べて、健康でいてほしい」「料理上手になって幸せになってほしい」という、親の思いも理解できるような気がしています。
――ご自宅で料理教室も開かれていたのだとか。

和洋中のジャンルにこだわらず、料理を教えていました。あくまで趣味の延長で、自分自身も楽しみながらできる範囲です。「料理研究家」という肩書きが欲しいな、という気持ちもありました。

夫婦の「好き」を叶えるために一家で森の中に移住

――田舎への移住を決意したきっかけを教えてください。

医療事務の仕事を手伝っていた時期があったのですが、「自分はずっとこの仕事をしていきたいのかな」と考えたときに、「何かが違う」と感じたんです。

夫は朝6時に出て、夜中の1時まで働くような毎日で、忙しい日々を送っていました。2人で次のステップを考えていたときに、夫が『ガーデニングがしたい』と言ったんです。

それなら、2人のやりたいことを叶えようと、田舎に引っ越すことにしました。それが約30年前のことです。
癒しの森のAlice
――4人のお子さんがいる中で、田舎への移住は大きな決断だったのではないでしょうか。

一番上の子は高校生で、一番下の子はまだ2歳半でした。当時は今のようにインターネットで簡単に情報を集められる時代ではありませんでしたし、「飲食店で働いたこともないのに、田舎でレストランだなんて、子どもを育てながら生活していけるのか」「そんな田舎で、どうやってお客様に知ってもらうのか」などと、周囲からは大反対されました。

でも、豊かな人生を送りたいという思いがあり、家族で引っ越しを決意しました。
――移住後すぐに、レストランを始められたのですか?

いえ、引っ越しをしてすぐに開店準備に追われるのは、少し違うかなと考えたんです。まずは地域の方に私たちのことを知ってもらい、受け入れてもらうことが大切だと考え、地域の子どもたちを対象にした料理教室から始めました。

5年ほど続けるうちに、「料理教室の八濱さん」と知っていただけるようになって。それからようやく、レストランを始めることになりました。お店は今年で約25年になります。
癒しの森のAlice 八濱孝美さん
――暮らしも働き方も変わる中で、不安はありませんでしたか?

毎月25日に決まったお給料がいただけることが、どれだけありがたいことか、思い知りました。そして、「田舎に引っ越すという選択肢は、やっぱり間違っていたのでは」と、何度も不安になりました。

自分で仕事をするようになって、何百円というお金のありがたさを初めて知ったという感じです。
――それでもやってみたいと思えたのはなぜでしょうか。

子どもが帰ってきたときに、『おかえり』と言ってあげたかったんです。

子どもが親と遊ぶ時間は、9歳ぐらいまでですよね。上の子どもたちが小さかった頃は、父親があまり家にいませんでした。『お父さん、また来てね』なんて言ったりして(笑)。年の離れた下の子には、親と過ごす時間を大切にしてあげたいと思ったことも、新しい生活を決意した大きな理由でした。

経済的にリスクはありましたが、私たちが望む豊かさは、経済的に裕福になることよりも、「夫婦・家族で楽しい時間を持つこと」だったんです。

夫の父親は、夫が母親のおなかにいるときに交通事故で亡くなっています。そういう背景もあって、「何かあったときに後悔しないように、自分たちの生き方を考えたい」という思いが、今の人生を後押ししてくれたのかもしれません。

アリスの世界に浸ることができるこだわりのレストラン

――不思議の国のアリスにまつわる雑貨をたくさん集められているそうですね!

高校生ぐらいから、お小遣いの範囲でアリスのグッズを集めていました。結婚した頃には、イギリスから直輸入した雑貨を扱うお店で買い集めたりもして。

インターネットがない時代でしたから、「ここで買わなければ、もう出会えないかもしれない」と言い訳をしながら買い集めていました(笑)。
癒しの森のAlice
――この世界観を出すために気を付けていることや、お客様に気づいてほしいと思うこだわりがあれば教えてください。

お客様にも、「不思議の国のアリス」の物語を感じていただければ嬉しいです。

例えば最初にお出しする「Drink me」というドリンクや、「何でもない日、おめでとう」という言葉は、不思議の国のアリスに出てくるものです。アリスの世界観をお料理の中でも体験していただきたいと思い、いろいろと工夫を凝らしています。

食べる時間も、一緒に食べる相手と過ごす時間も、その方の「命の時間」。それを大切にするお手伝いができたら、幸せですね。
癒しの森のAlice
――トランプをモチーフにしたサンドイッチなど、会話のきっかけになる料理もあるそうですね。アイディアを形にする作業も楽しそうです。

普段は家であまり会話をしないご夫婦でも、いつもと違う話題が出ることで、何か1つ、思い出が紡がれるように思うんです。

お誕生日ディナーに来てくださるご夫婦も多いですね。より幸せな時間、より豊かな時間を味わっていただければ幸いです。
癒しの森のAlice

「最高・最楽」に生きるために。自分を大切にすることを伝えていきたい

――料理を作る中で、特に好きな時間はありますか?

パンやケーキを焼くときの香りが、すごく好きなんです。焼いているといい香りが立ち込めて、「キッチンが喜ぶ」という感じがして。

人はどんなときでも食事はしますが、つらいときにパンやケーキを焼く気持ちにはなれませんよね。だから、「パンが焼ける」ということ自体が幸せなことだと思うんです。
――朝一番にお店でコーヒーを飲むひとときが幸せな時間だとか。

お客様がまだいらっしゃらない朝の時間は、私自身がお客様なんです(笑)。

以前は夫がコーヒーを淹れてくれていて、私はプリンセスのように夫のコーヒーを待っていましたが、今年2月、夫が脳内出血で入院することになってしまい、幸い、後遺症はほとんどなかったのですが、これからは自分で淹れようと。

「今日はどんなふうに生きたいかな」と考えながらコーヒーをいただく時間が、私の朝の1ページになっています。

子どもも独立して家庭を持ち、孫もできました。それまで必死にやってきましたから、今ようやく豊かな時間を味わえている感じがします。
癒しの森のAlice
――これからやってみたいことや夢はありますか?

今、私は66歳です。これからはレストランを息子に引き継いで、私は「楽趣me(ラクシュミー)」という、自分を大切にするためのサロンをしたいと思っています。

テーマは「最高・最楽に生きる」こと。これからも、楽しいことをお客様とともに楽しいことを考えていきたいと思います。
癒しの森のAlice 八濱孝美さん
◆癒しの森のガーデンカフェレストラン Alice
公式ホームページ
取材を終えて
一般的な価値観や、他人がどう思うかではなく、「自分たちが求める豊かさ何か」を追求している八濱さん。決して楽なことばかりではないはずですが、八濱さんのお話を伺っていると、その苦労すら、幸せなことのように思えました。
八濱さんの「好き」が詰まった「癒しの森のAlice」で、気持ちのよい庭園を眺めながら、大切な人と幸せなひとときを過ごしてみたいものです。
ウェルチル 私と誰かにちょっといいこと
番組「ウェルチル 私と誰かに、ちょっといいこと」

関西テレビ放送
木曜よる10時54分放送(関西ローカル)
次回もお楽しみに。