前編では音仲さんのこれまでのキャリアや、ナッツ専門店立ち上げの経緯についてお話を伺いました。
後編では「ゆるグルテンフリー」の考え方や実践方法、これからの挑戦についてさらに詳しくお伺いします。
音仲紗良さんプロフィール
音仲さんは、フードコーディネーターとして活動する傍ら、ナッツ専門店やグルテンフリー飲食店を展開してきた起業家です。幼少期から食に対する関心を持ち、編集者としてキャリアをスタート。その後、食と美容の関係に興味を持ち、フードコーディネーターとして独立。無添加ナッツやグルテンフリー食品の専門店を立ち上げ、「ジャンク」と「ヘルシー」という両極端な価値観をつなぐ「架け橋」として活動の幅を広げています。現在は、ホテルや飲食店のメニュー監修やサウナ飯のプロデュース、多くの食品メーカーのPRディレクターとして、飲食業界のバックサポート業務を中心に行っています。
ゆるグルテンフリーで健康になるコツ
――ゆるグルテンフリーについて、何から始めていけばよいでしょうか。
音仲:完璧を目指さずに、まずは食品の成分表示を見て、いつも食べているものにどんなものが含まれているか確認するところから始めてみてください。
無意識に摂取していることが多いから、まずは自分が食べているものに何が含まれているのか知ることが大事です。小麦はダメ、添加物はダメという選び方ではなくて、例えば同じインスタント食品でも、材料がなるべくシンプルなものを選ぶ。食べることを我慢するのではなく、質を変えていくところから始めてほしいです。
成分表示の見方ですが、最低限次の2つを知っておくだけで十分です。
① 原材料は多い順に記載されていること
② 見覚えのないカタカナやローマ字表記の成分は、添加物であること
この2点を意識して成分表示を確認すると、ジャンクフードにはいかに糖質や脂質、不自然な成分が多く含まれているかに気づくことができます。
材料がシンプルな食べ物を選んでいるうちに少しずつ味覚が変わっていきます。ジャンクフードやスイーツの味が「濃すぎる」と感じたり、「舌がピリピリする」「甘すぎる」と感じたりするようになり、無理なく自然と避けるようになっていきます。
私も学生のころはクリスマスケーキをホールで食べるほどの甘党でした。夜中のラーメンも大好きでした。そんな私が、少しずつ食の質を見直していったことで、今ではスイーツは一口で満足できるようになり、むしろ食べたいと思わなくなりました。かつての自分では信じられないほど変われたので、ハードルが高いと感じている人にも誰でも変われるから安心してもらいたいです。
焦らず少しずつ段階を踏んでいってほしいと思います。
――ゆるグルテンフリーを続けるコツは?
音仲:1日3食の食事のうち、1食をお米に置き換えるところから始めてみてください。
それだけでも食生活の1/3は変えられていることになります。
理想は完全グルテンフリーですけど、小麦はおいしいし、否定したいわけではありません。たまにはハンバーガーとかラーメンも食べていいのです。毎日の食事のベースが大事だから、体や心の栄養になる食事の質について少しずつ向き合ってもらえたらいいなと思います。
おいしく食べているうちに健康になれる。そんな“コミュニティ”を作りたい
――これからの展望を教えてください。
音仲:子供の頃から大切な人との別れを何度も経験してきました。そのたびに「明日が必ず来る保証なんて誰にもない」と思いながら生きてきたので、思いついたことはすべて挑戦したいという気持ちがあります。そのため、今も優先順位に悩んでいるのが正直なところです。
ただ、これまで関わってきたナッツ、バインミー、おばんざい、サウナ飯も、どれも一貫しているのは「健康の輪を広げたい」という想いです。そのためにコミュニティ作りとグルテンフリーの家庭料理を食べられるラボのような基地を作りたいと考えています。
これまでミシュラン三ツ星のレストランからB級グルメまでジャンルを問わず食べ歩いてきましたが、最終的にはやはり「ご飯と味噌汁、納豆卵」といった素朴な和食が一番落ち着くと感じています。ご馳走も良いけど毎日食べるなら家庭料理には敵わないなと実感する年頃になってきました。
2024年2月末で原宿店は夜営業やアルコール提供NGの契約に切り替わったため、断腸の思いで閉店の決断をしましたが、夜のおばんざい需要が高いなと感じていました。
「ただいま」と言って通ってくれる常連さんも多くて、居場所を求めている単身者が多いことも実感しました。私自身も「おかえり」と迎えてあげられることが幸せでした。そして、それまで健康とか意識していなかった人たちが「成分表示を見るようになった」「食の質を意識して選ぶようになった」と報告を受けることが多くて。多くを語らなくても、コミュニティや居場所があれば自然と広がっていくんだなと実感したんです。
もちろん「おいしい」ことが大前提なので、いまはミシュラン三つ星出身の「横鍋JAPAN」という阿佐ヶ谷の割烹料理屋で料理の勉強をさせてもらいつつ、予約困難店にするためのお手伝いもさせていただいています。
20代・30代前半は契約内容をしっかり確認しないまま進めてしまい、後々苦い経験をすることも続いてしまって、結局いま店舗を持ってない現状に反省しているので、今は「石橋を叩きすぎて割る」くらいの慎重さと飲食人としての技術や知識を深めながら、新しい挑戦のために準備を進めているところです。
私は「これがダメ」「こうあるべき」と一つの考えを強要するストイックなプロフェッショナルではなく、"ジャンク"と"ヘルシー"の両極端な価値観を繋ぐ「架け橋」や「踏み台」のような存在になりたいと思って活動をしてきました。
相容れない層の境界線を曖昧にすることで、無意識にカラダによいものを選択している状態に導くこと。
例えばバインミーというジャンクなファストフードでヘルシーを体現しようとしたのもそんな想いからです。
このアプローチは一見アンバランスであり、そのために批判の声が上がることも理解した上で、いつも覚悟を持って発信しています。
「がんばりすぎない食育」には、食を通して心も体も豊かにするような温かくて優しいメッセージが込められています。今後はグルテンフリーの基地作りという新たな挑戦を通じて、より多くの人に健康的な食生活を提案してくれることでしょう。音仲さんの作る新たな食の世界にぜひご注目ください。
音仲さんが主宰する、食のリテラシーをオンラインで学ぶ「子どもに伝えたい食育アカデミー」はこちら
https://lp.shokuiku-ac.com/