近年、最高気温が35度以上の「猛暑日」が全国各地で多数観測されるようになりました。夏本番には、40度を超える地点も。2024年には熱中症による救急搬送者は9万人を超え、熱中症は自然災害とも言える現象になりつつあります。
そこで、2013年から発足している「熱中症ゼロへ」プロジェクトの概要をはじめ、近年の気象の傾向や手軽にできる熱中症対策について、日本気象協会の気象予報士の久保智子さん、「熱中症ゼロへ」プロジェクトリーダーの泉澤里帆さん、広報担当の加藤綾子さんにお話をお聞きしました。
左から、広報担当 加藤綾子さん、「熱中症ゼロへ」プロジェクトリーダー 泉澤里帆さん、気象予報士 久保智子さん
熱中症によって亡くなってしまう方をゼロに。カギは、知って・気付いて・アクションの3ステップ
ーー「熱中症ゼロへ」プロジェクトの概要を教えてください。
「熱中症ゼロへ」プロジェクトが発足したのは、今から12年前の2013年のことです。2013年というと、皆さんの意識として、「熱中症という言葉は知っているけれども、あまり危機感を抱いていない」という方がまだ多かったのではないでしょうか。
私たちは、大雨や台風などと同じように、熱中症も気象災害の一つであると考えています。そのため、熱中症にかかってしまう方を減らして、亡くなってしまう方をゼロにするということをミッションに、「熱中症ゼロへ」プロジェクトはスタートしました。
「知って・気付いて・アクション」というコンセプトで熱中症予防を呼び掛け、広く情報発信をしています。2024年には97,578人が救急車で運ばれているという現状もあり、熱中症という言葉を知るだけではなく、自分ごととして捉えることが重要だと考えています。
熱中症について知ってもらうことはもちろん、「自分もかかるかもしれない」と潜在的なリスクに気づいていただき、対策グッズを買ったりといったアクションを起こすというところまでの3ステップを1セットとしてお伝えしています。
ーー近年の暑さは「命に関わる暑さ」と言われますが、どのような気候の変化が背景にあるのでしょうか?
気候変動の要因には様々なものがある
※提供:日本気象協会推進「熱中症ゼロへ」プロジェクト
大きなものとしては、長期的な地球温暖化の影響です。ひと昔前だったら、最高気温35度というような日は珍しかったのですが、今や35度は年に何回あってもおかしくないようなレベルになってきています。
下手すると、最高気温が40度という日も出てきていますよね。それは、長期的に地球全体の温度が上がってきているからといえます。
夏だけを見ても、去年・一昨年と、統計を取ってから過去最高の暑い夏になっています。世界的に地球温暖化の対策は行われていますが、やはり人間が活動していく中で、どうしてもエネルギーを使ってしまう。ですから、これからも、一定の気温の上昇というのは否めないのではないかと思います。
ーーこうした気候の変動は熱中症の危険性と関わりがあるのでしょうか。
そうですね。気候変動による平均気温の上昇に伴い、猛暑日や熱帯夜といった、極端に暑い日が増えており、それは熱中症患者の増加につながっていると考えることができます。
例えば、梅雨入りから梅雨明けまでにものすごく気温が上がってしまうと、体が暑さに慣れる時間が十分に取れず、結果として熱中症による救急搬送者が増えてしまうんですね。また、9月頃の残暑の厳しさも熱中症の発生の増加に関係しています。
特に、去年の9月は過去にないほどの厳しい残暑でした。結果として、暑い期間がずっと続いたことによって、2008年に統計を取ってから、9月の熱中症による搬送者数が初めて1万人を超え、最も多い記録となってしまいました。
夏本番を前に、暑さに慣れる活動を。「暑熱順化」を進めることで熱中症になりにくい体に
ーー暑い時期が本当に長くなっていますよね。「熱中症ゼロへ」プロジェクトではそうした気候の変化に対して、「暑熱順化」を呼びかけていると思いますが、そのメカニズムを教えてください。
暑熱順化する前後の体の様子
※提供:日本気象協会推進「熱中症ゼロへ」プロジェクト
暑熱順化とは、簡単に言うと『体が暑さに慣れること』です。通常、私たちの体は、夏が近づき暑い日が続くと、自然と暑さに慣れていくと言われています。
暑熱順化が進むと、発汗量や皮膚血流量が増加し、発汗による気化熱や体の表面から熱を逃がす熱放散がしやすくなります。
夏本番の暑くなる時期を前に、無理のない範囲で汗をかく、暑さに慣れる習慣をつくることで、熱中症になりにくい体を作ることができるのです。
ーー暑熱順化のために、日常生活で手軽に取り入れられる生活習慣があれば教えてください。
提供:日本気象協会推進「熱中症ゼロへ」プロジェクト
軽く汗をかく程度の運動がおすすめです。また、入浴などで汗をかくのも効果的です。とはいえ、特に高齢者の方やお子さんなどは、頑張りすぎて熱中症になってしまうことのないように、周りの環境やご自身の体調に気を付けながら行っていただければと思います。
運動にあまり抵抗がなければ、軽めのジョギングや一駅歩く程度のウォーキングもおすすめですし、室内でストレッチ程度の運動でも有効です。加えて、入浴も効果的な習慣です。
2日に1度を目安に、お湯を張って湯船に浸かっていただくことで、じんわり汗をかくことができます。普段の生活に取り入れやすいものをご自身で選んでいただくのがいいかなと思いますね。
今年も高温多湿な夏に。身近にできることから熱中症対策をはじめていこう
ーー今年の夏はどのような暑さが予想されているのでしょうか?
今年は気温が高いのはもちろんのこと、例年よりも湿度が高い、高温多湿な夏になりそうな傾向があります。熱中症というのは、気温条件だけではなくて、やっぱり湿度の高さというのもポイントになってきます。
どうしても湿度が高いと汗が蒸発しにくくなり、身体の中に熱がこもりやすい状況になってしまうんですね。そのため、今年は例年にも増して、熱中症の危険度の高い夏になるのではと予想しています。
また、朝晩もあまり気温が下がらず、熱帯夜が多くなるとも予想しています。昼間の暑さ対策ももちろんですが、夜間の熱中症の予防対策というのも重要になってきます。
昼間に暑いところで運動して、その時には症状が出なくても、時間差で夜間に熱中症の症状が出るということもあるので、家に帰ってきたら、ゆっくりお休みできる涼しい環境を整えることが大切です。また、可能な限り、寝る前と起きた時には水分補給をするということも習慣にしてほしいと思います。
ーー今年の夏に向けた熱中症対策について教えてください。
熱中症対策の観点としては、3つあります。まずは、体づくりをしようということ。これは特別なことというよりも、毎日の3食の食事をしっかり取る、睡眠をしっかり取るというすごく基本的なことですね。そういった生活習慣を整えることで、熱中症にかかりにくい強い体を作ることが熱中症対策の基本と考えています。
2つ目は、暑さに対する工夫をしようということです。通勤やお出かけの際、お子さんであれば、日々の通学に加え、部活動や体育など屋外、屋内に関わらず熱中症に注意が必要な場面は多々あると思います。その中で、帽子をかぶる、日傘を差す、十分な量の飲み物を持っていくなど、暑さ対策用の持ち物をしっかり選定いただくということが大切です。
3つ目は、夏本番になる前に、環境の準備をしておくということです。しっかり冷房が使用できるように、クリーニングを済ませる、試運転を行う、サーキュレーターも購入するなど、家の環境を整えることも熱中症対策の基本ですね。
ーー読者の皆さんにメッセージをお願いいたします。
熱中症は、気象情報を事前に調べることで、予防することができます。明日は蒸し暑くなるなどという言葉を天気予報で聞いたら、出かける際にはいつもよりタオルをもう1枚多く持っていって、1つは濡らして体を冷やせるようにしようなど、気象情報を活用しつつ、工夫をしていただけたらなと思います。
「熱中症ゼロへ」プロジェクトでは、自分がいる場所や年代、活動レベルを入れると、それぞれの場面に応じた水分摂取や休憩の目安を提案する「熱中症セルフチェック」というものを提供しています。
熱中症の危険度レベルをA:油断禁物、B:十分注意、C:危険、D:かなり危険の4段階で教えてくれる
今自分がいる環境の熱中症のリスクについて意識することが熱中症対策につながりますので、ぜひこういったツールも活用していただけたらと思います。
また、お出かけの際には給水所や休憩所はどこにあるのかなど、暑さを避けられるポイントを事前に調べておくことも大切です。
市販の暑さ対策アイテムを活用したり、持ち歩きの飲料を凍ったペットボトル飲料に変更したりなど、その場に合わせた工夫も熱中症予防の大切な観点の一つですね。
まずは、できることから少しずつ、熱中症対策への意識を高めていただけたらいいなと思います。
「熱中症ゼロへ」プロジェクト公式サイト
https://www.netsuzero.jp/
「熱中症ゼロへ」プロジェクト公式サイト:「熱中症セルフチェック」
https://www.netsuzero.jp/selfcheck
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年代、活動レベル、現在の環境(気温と湿度)を入力すると、場面に応じた水分摂取や休憩の目安を表示します。