ウェルチル

人生100年を楽しむためのウェルビーイングメディア

画像

”余白”のある展示が好奇心を刺激する。「あそぼうよ!五味太郎えほんの世界展」

絵本をひらくと、そこには色や音やにおいまで感じられるような、小さな世界が広がっています。そんな絵本の世界を、実際に体験できる展覧会が、いま全国で人気です。登場人物になった気分で絵の中に入ったり、お気に入りの一場面を自分なりに描いてみたり。子どもはもちろん、大人もつい夢中になってしまう時間がそこにあります。

11月は、そんな大人も子どもも楽しめる絵本の展覧会をめぐりながら、親子で楽しむウェルビーイングのかたちを紹介します。

第1回目は、東京・葛飾区の亀有駅近くにある「絵と言葉のライブラリー ミッカ」で開催中の「五味太郎 えほんの世界展」を紹介します。『きんぎょがにげた』をはじめとする数々の名作を通して、子どもも大人も“絵本に入り込む”ような体験を味わえるというこの場所は、子どもの“好奇心”を原動力にした学びと創造のライブラリー。今回は、絵と言葉のライブラリーミッカ館長の山本曜子さんに、建物や展示のコンセプト、空間づくりへの思いを聞きました。
絵と言葉のライブラリーミッカ館長の山本曜子さん

「何かをしなければ」ではなく、好奇心から始まる場所

ーー 「絵と言葉のライブラリー ミッカ」のコンセプトや魅力について教えてください。

ミッカの一番のテーマは「子どもの好奇心」です。何かを学ぶことや、成果を出すことを求めることはありません。ただこの空間や本の世界の中で、子どもたちが自分の興味のままに感じ、選び、動けることを大切にしています。
ここは“教える場所”というよりも、“感じる場所”。置いてある本や様々なプログラムを通して、思わず心が躍るようなきっかけと出会える場所でありたいと思っています。
「絵と言葉のライブラリー ミッカ」
ーー入口近くにあった「アトリエ」では、子どもたちが楽しそうに工作していましたね。どんな取り組みなのでしょうか。

(取材当日の)毎週金曜日には、「だれでも工作」というプログラムを行っています。水曜日は「絵の具の日」として、毎回異なる3色の絵の具を使い、偶然の色との出会いを楽しみながら絵を描く時間を設けています。また、いつでも参加できるプログラムとしては、2ヶ月ごとに内容が変わる無料の工作キットも人気です。
どのプログラムも見本を真似るのではなく、自分のアイデアで自由につくるスタイルです。子どもたちは自然と夢中になって、自分なりの表現をのびのびと楽しんでいます。
「絵と言葉のライブラリー ミッカ」

五味太郎さんの「絵本の世界」に出会う

ーー 今回の「えほんの世界展」のテーマを「これがいいんだ!五味太郎と あそぶ・きめる・いきる」にした理由を教えてください。

五味さんの作品に共通して感じるのは、自分の感性を信じて物事を面白がる姿勢です。
「こうしなきゃ」「うまくやらなきゃ」といった息苦しさはなく、まるでジャズの即興演奏のように、その瞬間の感覚を楽しみながら「これがいい」と決めていく。そんなしなやかさがあります。

瑞々しい少年のまなざしと、思考に満ちた大人の視点。その両面を備え持つ五味さんの遊び心は、すべての子どもや大人に、気張らず生きることへの優しい勇気を与えてくれると感じています。そうした思いから、今回の展示テーマは「これがいいんだ! 五味太郎と あそぶ・きめる・いきる」としました。
「絵と言葉のライブラリー ミッカ」
ーー展示の中で特に注目してほしいポイントはありますか?

あまり「ここを見てほしい」といった指定はありません。それぞれの方が展示の中で自由に出会い、自分の心の動きを味わっていただけたらと思っています。
展示期間が長いので、途中で展示物が入れ替わったり、少しずつ形を変えたりもします。何度訪れても新しい発見がある“生きている展示”を目指しています。

ーー子どもと大人で、楽しみ方に違いはありますか?

子どもたちは、まさに今、絵本の世界をそのまま体感して楽しんでいるように感じます。
一方、大人の方は「昔読んだ」「懐かしい」といった感情で楽しむ方も多く、世代を超えて共通の思い出を分かち合えるのが五味太郎さんの絵本の大きな魅力だと思います。展示の中には、今では入手が難しい絵本もあり、「あ、この本覚えてる!」と嬉しそうに声を上げられる方もいらっしゃいます。
「絵と言葉のライブラリー ミッカ」

絵本の世界を味わう、空間づくりと地域とのつながり

ーーティールームの限定メニューも印象的でした。どのように決めているのでしょうか?

ティールームの担当スタッフが、物語の世界やその奥にある想いを大切にしながら、展示のテーマや季節に合わせて考えています。食べることは、子どもたちの成長の喜びでもあります。ただ可愛いだけでなく、添加物は極力使わず、皆さんに安心して食べて頂けるメニューづくりを心がけています。また、信頼できる地元の味を取り入れることで、地域とのつながりも大切にしています。たとえば、『きんぎょがにげた』をモチーフにしたいちごのかき氷は、亀有のジェラート専門店「クラフティス」さんのジェラートを使用しています。
「絵と言葉のライブラリー ミッカ」
ーーグッズコーナーもにぎやかでしたが、人気のアイテムやおすすめのアイテムはありますか?

どの商品も人気がありますが、なかでも葛飾区にある創業約80年のぬいぐるみメーカー「セキグチ」さんの『きんぎょがにげた』のぬいぐるみは、地元で作られたぬくもりのある人気アイテムだと思います。
「絵と言葉のライブラリー ミッカ」
おすすめのアイテムは、「五味太郎クロック」です。五味さんの直筆サイン入りで、一つひとつ手作り。随時、追加で発注している人気ぶりです。
「絵と言葉のライブラリー ミッカ」

親も子も、一緒に感じて楽しむ時間

ーー 親子で訪れる場合、おすすめの楽しみ方はありますか?

ミッカは、0歳から小学生までと、訪れる子どもたちの年齢の幅がとても広いんです。赤ちゃんでも『きんぎょがにげた』の色や形に反応して、展示をじっと見つめていたり。年齢に関係なく、絵本が、その人らしい感じ方をそっと引き出してくれているように思います。

五味さんの絵本は保護者の皆さんにとっても、きっと思い出の1冊があるはず。子どもに付き合う時間としてではなく、大人の皆さん自身も童心にかえって絵本の世界を楽しんでみてください。
「絵と言葉のライブラリー ミッカ」
ーー最後に、「あそぼうよ!五味太郎えほんの世界展」ならではの魅力を一言で教えてください。

ページをめくるように空間を歩きながら、作品の世界にふれていく。
ここにしかない五味太郎さんのえほんの世界を味わいながら、子どもも大人も、自分のペースで想像をふくらませ、ぜひ自分の“これがいい”を探してみてください。
そして展示を楽しんだあとは、また絵本をひらいてみてください。

絵と言葉のライブラリー ミッカに足を運んでみては?

絵と言葉のライブラリー ミッカの空気には、不思議な「余白」があります。「こうしなさい」と指示されることも、「上手にできたね」と評価されることもない。その“何もしなくていい”時間が、子どもたちに安心感を与え、自分のペースで世界と関わる力を育んでいました。親子のウェルビーイングな息抜きのために、ぜひ足を伸ばしてみてはいかがでしょう。

あそぼうよ!五味太郎えほんの世界展

展示テーマは「これがいいんだ!」– 五味太郎と あそぶ・きめる・いきる –
https://micca.me/event/11286/
あそぼうよ!五味太郎えほんの世界展
会 期:2025/8/8(金)→2026/5/27(水)
場 所:絵と言葉のライブラリーミッカ(東京・亀有)
時 間:10:00〜18:00
休 館 日 :月曜・第4木曜(祝日の場合は翌日)、2月17日(火)、年末年始
観 覧 料 :無料  ※館内展示は別途ミッカ入館料が必要となります。
主 催:絵と言葉のライブラリー ミッカ
共 催:一般社団法人絵本とともに
特別協力:五味太郎
協 力:偕成社、福音館書店、絵本館、株式会社丹青社
取材・撮影:柳川愛理