新生活が始まる春。環境が変わる季節だからこそ、さらに心地よく、わくわくする毎日をスタートさせたいものです。自分らしい生活の一歩としておすすめなのが「ベランダ菜園」。「植物を育てるのは苦手……」「準備するのにハードルが高い」という人も簡単に始められるポイントを、株式会社サカタのタネの園芸ソムリエ・新井裕之さんに伺いました。
まずは日当たり、風通しをチェック!
――ベランダ菜園の魅力はどんなところですか?
新井:植物は毎日変化や成長を見せてくれるのが喜びのひとつです。野菜の場合は採れたてをすぐに食べることができ、体の栄養にもなります。ベランダ菜園は気軽に楽しみながら、心も体も健康的に近づくところが魅力だと思います。
――限られたスペースでベランダ菜園を楽しむには、どんな環境があるといいでしょうか。
新井:できるだけ日が当たる場所がよく、南向きが理想。次いで東・西・北です。ほとんどの野菜は日照が必要ですが、真夏で40度以上になる場合は、植物が弱ってしまうので日よけを。最適なのは、1日のうち最も日が高くなる時間帯は日陰になり、朝夕に日が当たる環境です。
さらに、風通しは適度に必要ですが、高層階のベランダは風が強すぎるので風よけが必要になることも。コンクリート壁のベランダは、日当たりを遮り、熱もこもるのでベランダ菜園には不向きですが、台を置いて日が当たるようにしたり、風通しをよくしたり工夫してみるといいでしょう。
また、水やりをしたあとにプランターの泥水が流れて排水溝をふさがないような注意も必要です。受け皿を置いたり、ヤシガラ繊維が含まれた土を使ったりするといいと思います。
――台風のときなどは部屋の中にしまうスペースがあったほうがいいですか?
新井:ベランダは雨が当たらないのがメリットですが、台風など雨風が強いときは、一時的に室内に新聞紙をしいて取り込むほうがいいでしょう。
ベランダ菜園初心者がそろえるべきアイテム
――ベランダのように省スペースでの菜園をする場合、最初にどんなアイテムをそろえるといいですか?
新井:用意するプランターの大きさは、育てる植物の種類によって変わります。葉物野菜なら、長さ20〜30cm×幅15cm、深さ15cmくらいのミニプランターでも栽培可能です。果菜類(実がなるもの)は直径40cmほどで深さも30〜40cmほどある菜園用のプランターがいいでしょう。逆に、ご自身のベランダのサイズにどのくらいのサイズのプランターが置けるかによって、育てる野菜を考えてみるといいかもしれません。
用意する土は肥料入りの「野菜の培養土」が初心者におすすめです。ホームセンターや園芸ショップなどにもありますし、弊社オンラインショップでは「野菜三昧」という名称で取り扱っていますので、プランターの容量に合わせて選んでください。引っ越しが多い人が土の処分に困る場合、可燃ゴミに出せる土もありますよ。
そのほか、トマトなどの果菜類を育てるなら支柱が必要ですし、きゅうりなどのつる野菜を育てるならネットも必要です。じょうろや小型のスコップ、軍手などは必須ではありませんが、あったほうがいいでしょう。
――肥料や農薬なども必要ですか?
新井:育て始めて1〜2カ月ほどしたら、野菜用の配合肥料を追加してあげましょう。有機肥料は月に1回追加すればいいので楽ですが虫が集まりやすいのがデメリット。においや虫が気になる場合は、液体肥料にするといいでしょう。液体肥料は週1回あげる必要があるので、こまめな人向きです。
また、虫よけには天然成分の農薬が人気です。農薬のほかは、昔で言う”はえとり紙”のような粘着シート、防虫ネットなどもあります。
トマトなどの栽培はゴールデンウィークが絶好のチャンス
――初心者でも失敗しにくい、チャレンジしやすい野菜の選び方を教えてください。
新井:種から育てるなら、栽培期間が短い葉物野菜類がおすすめ。コマツナ、リーフレタス、ミズナ、チンゲンサイなどは、種をまいてから30〜50日で収穫でき、1年中栽培可能です。初心者の場合は、ベビーリーフの状態で収穫する葉物野菜がベスト。プランターもそれほど大きくなくてすみます。1回収穫したら、また種まきして育てましょう。夏ならバジルや青じそ、冬ならクレソンやパセリがあります。
苗を買ってきて栽培するなら、ミニトマト、ピーマン・パプリカ・シシトウ、ナス、ズッキーニ、キュウリなどの果菜類が比較的成功しやすいと思います。これらの夏野菜の栽培は、ゴールデンウィークにスタートするのが絶好のチャンスです。少し大きめのプランターが必要ですが、自分で育てた野菜を収穫して、食べるのは楽しいものです。
土の表面が乾いたらたっぷり水をあげて
――では、いざ育てるにあたってのお世話のコツはありますか?
新井:失敗しないためのいちばん大切なポイントは、毎日様子を見ること。そして水やりにもコツがあります。基本的には、毎朝土の乾き具合を見て、“土の表面が乾いたらたっぷりと水やり”する。これを呪文のようにとなえて覚えてください。コップでもじょうろでもいいので、あふれかけるくらいまで水をあげて、受け皿にたまった水は捨てます。
植物の根が呼吸するには、空気と水がバランスよく必要です。植物の根がカラカラに乾くと死んでしまいますし、水浸しにすると呼吸できなくなってしまいます。だから毎日様子を見て、土の表面が乾いたら水をたっぷりあげること。鉢の底から水が流れ出るまで水やりをすることで、根に新鮮な酸素が行き届きます。慣れるまでは土を触って確かめてから水やりするといいでしょう。
困ったら早めに相談を
――プランターの土は、ほかの野菜などの栽培にも使用できますか?
新井:一度野菜の栽培に使った土は、「再生材」を加えればほかの野菜の栽培にも使うことができます。ですが、何度も使うと土は悪くなっていきますので、数回使ったら新しい土に替えることをおすすめします。使用済みの土を回収してくれるホームセンターもありますので(購入レシートが必要など条件あり)、土を購入する際に確認してみましょう。
――そのほか、ベランダ菜園を楽しむポイントがあれば教えてください。
新井:もし困ったことがあったら、できるだけ早く詳しい人に相談することです。ネットの情報は地域によって気候や環境が違いますので、身近に詳しい人がいれば実際に栽培の様子を見せてもらって教わるのがベストです。お店の人と仲よくなって教えてもらうのもいいと思います。
弊社のホームページでは品種ごとのQ&Aを用意していますし、お客さま相談室では植物栽培に関する質問をお受けしています。「野菜に元気がないな……」と気になったら、手遅れになる前に相談を。
植物が毎日少しずつ成長する変化を見るのはとっても楽しいものです。私自身は10歳から園芸の楽しさに夢中になりました。この記事をご覧になった方は、この機会にぜひベランダ菜園にチャレンジしてみてほしいと思います。
取材・執筆/早川奈緒子