毎月ひとりで気になるスポットを訪ねる朝井麻由美さんの連載「ソロ活女子の体験レポート」。今回は、夏から初秋にしか作れない緑色の「ゆず胡椒」づくりに挑戦。フードコーディネーターに教わりながら、不器用さと闘い、人に助けられまくった前編をお届けします。
薬味があまり好きではなく、料理に添えられていてもたいてい使わない。ショウガもミョウガもワサビも大葉も大根おろしも手付かずのまま食事を終えるため、なんだかもったいない気分になる。綺麗に盛られるだけ盛られて、そのままただ生ごみとして捨てられていくわけだ。切ない。ただ、ゆず胡椒だけは違う。あれだけはいつも残さず使い切るし、むしろ足りない。あんな申し訳程度に添えるんじゃなくて、どんぶり一杯くらい横に置いておいてほしい。
ところでゆず胡椒、手作りするとおいしいらしく、しかも作るなら9月はベストな時期だという。ゆず胡椒には青ゆずと青唐辛子を使うが、青ゆずが7月~10月、青唐辛子が7月~9月のため、夏から秋の始まりにかけて仕込むといいらしい。ちなみに10月以降は青ゆずは黄色に、青唐辛子は赤く、それぞれ色づいていくため、また違った味わいのゆず胡椒を作ることもできる。だが、いわゆる緑色っぽい色をした定番のゆず胡椒は、青ゆずと青唐辛子が出回っている時期だけのものなのだ。
そこで、ゆず胡椒作りを教わってくることにした。
作り方を教えてくれたのはフードコーディネーターの黒瀬佐紀子さん。
実際に手を動かしながら作り、出来立てのゆず胡椒を食べて、作ったものを瓶詰めして持ち帰らせてもらえるらしい。嬉しい。
配布されたゆず胡椒の作り方の紙を見てみると、驚くほど簡単に見えた。ゆずの皮を薄く剥き、フードプロセッサーにゆずの皮、青唐辛子、塩を入れて回す。その後、すり鉢でなめらかになるまで擂る。おわり。えっ……、これだけ? と言いたくなるくらい単純だ。
分量は、「ゆず皮3:青唐辛子2:塩1」の比率で、ひとり分を作るならば、ゆず皮30g(ゆず3~5個分)、青唐辛子20g、塩10gがちょうどいい。
今回は料理教室のような形で他にも5人くらい一緒に教わっているため、もっとたくさん作る。
青唐辛子は黒瀬さんの家庭菜園から収穫させてもらった。
さて、作業は青ゆずの皮剥きから始まった。ゆずの皮をシュッシュッシュッと切っていく。皮と実の間にある白いワタがあると完成品に苦味が出るため、なるべく皮の部分だけを薄~く削ぐ。
見よう見まねで私もやってみるものの……難しい。包丁を使い慣れていないせいで、切っても分厚くなってしまううえに、他の人と比べて明らかに作業スピードが遅い。
包丁の使い方が、あまりにも危なっかしかったのだろう。「これ使ってみる?」とスライサーを渡された。包丁係、クビである。スライサーはパッと見やりやすそうなのだが、ゆずの皮はそこそこ硬く、あまり切れ味のよくないスライサーの刃では、動かすたびにゆず皮が引っかかって、かなりやりづらかった。不器用でつらい。
そしてついに、ゆず係をクビになり、青唐辛子のヘタを取る作業を任された。
このあと、青唐辛子をパカッとあけて、中身のタネとワタを取り除くことになるのだが、その前段階として、大量の青唐辛子のヘタをプチプチと取り除くのだ。
簡単だし、危なくないし、ヘタがキレイに取れると気持ちいいし、無心になれてとても楽しい。でも、ヘタ取りなんて中身のタネを取り除くときにサクッとできるはず。あまりにも役立たずすぎて、当てがわれた仕事なんじゃないかと薄々思っている(卑屈)。
ゆずの皮剥きはまだ終わらない様子。ゆずの果汁を絞りながら待つ。
しばらくすると、すべてのゆずの皮を剥き終わった(私は何もしていないけど)。大変な工程はほとんど人任せにしてしまった気がする。ゆず胡椒作りに挑戦するソロ活、のつもりで来たのだが、人に助けられまくっている。長年ソロ活をしていると、こういうことはよくあるのだ。行った先々で見知らぬ人々が結構助けてくれる。
ここからは青唐辛子で目や肌を傷めないように、完全防備スタイルで行う。このときはピンときていなかったが、唐辛子に直接触れてしまうとあちこちがヒリヒリするため、手袋やマスクでガードしたほうがいいらしい。
ゆず胡椒作りは作っている最中の香りも楽しい。ゆずの皮を剥いていたときは部屋がゆずの爽やかな香りで充満していたのが、青唐辛子を触り始めると、徐々にピリッとした香りが混ざり始めた。
タネを取り除き終わったら、ゆずの皮と塩と一緒にフードプロセッサーへ。
ちなみに、今回は大量に作っているが、家でひとりで少量だけ作る場合はフードプロセッサーがうまく回らない可能性もある。その場合は、フードプロセッサーは使わず、すり鉢だけで作る方がいいらしい。
量が多いので、半分だけ入れて回し、粉々になったら残りを追加していった。
いったん粉々になったものを味見。うーん。これは……。塩で味付けしたゆずの皮と青唐辛子の味がする。おいしいけど、まだ全然ゆず胡椒ではないな。
ここからさらに、ゆずの果汁を加えながらすり鉢で擂っていく。果汁の量はお好みで。たくさん入れればそれだけなめらかにはなる。
しばらくすり鉢でゴリゴリゴリゴリして……ついに完成。フードプロセッサーで砕いていたときと比べると、かなり黄色っぽくなっている。
これを瓶に詰めて、冷蔵庫で保管しておくと発酵が進んで食べやすくなるらしい。
ちなみにこれが一か月以上置いておいたゆず胡椒との色比較。
皮を剥いて、切って、すり潰して、ゆっくり時間をかけて作ってさらに完成後も時間がたつごとの味の変化を楽しむのがゆず胡椒というわけだ。
今回、ゆず胡椒を作ろうと思ったきっかけは、『ゆず胡椒は絶対に手作りしたほうがおいしいよ』と教えてくれた友人の存在だった。その友人はなんというか、生活をするのが上手い。Instagramを見ていると、甘夏を丸ごと煮てマーマレードを作っていたり、あんずを煮て瓶詰めにしていたりする。たまに、ではなく、わりとしょっちゅうそういう写真が上がっている。日々、仕事に追われていて忙しそうなのに、合間をぬって何かを煮ている。本人は「丁寧な暮らし」だなんて手垢のついたことを言われたくないだろうけれど、どう考えても丁寧だ。そう、私のようにしょっちゅう米を炊き忘れて、茶碗にも入れずにパックご飯をそのまま食べるようなことはしなさそう。パスタを茹でるのは面倒だけど、ご飯のお供も何もないときに、パスタソースを温めて米にかけて食べる、なんて横着もしないのだろう。
本当なら、ゆず胡椒は作った瞬間すぐにもりもり食べたいし、じりじりと時間をかけて発酵している間に、他のことに興味が移ってしまいそう。だけど、冷蔵庫にしまったゆず胡椒の瓶を見たときくらいは、せかせか動き過ぎずにひと呼吸置こう。ゆず胡椒を作ったあの日以来、そう思いながら過ごしている。
(取材・文/朝井麻由美)