「ライフプラン」というと面倒なイメージがあり、敬遠する人も多いでしょう。しかし、ライフプランは「ウェルビーイング」と深いつながりがあります。自分らしく生きていくには行き当たりばったりでなく、目標に向かっての行動が必要だからです。
今回は、ライフプランの立て方(キャッシュフロー表などの作り方)、ライフプランを行動につなげた事例などを紹介します。
ライフプランとは?
ライフプランとは、人生設計、特に将来のお金に関する計画のことです。結婚、出産、住宅購入、子どもの教育、老後といった人生のイベント(ライフイベント)にかかるお金を予測し、それに向けて貯蓄や投資などを計画していきます。
ライフプランで想定すべき主なライフイベント
ライフプランで想定すべき主なライフイベントには、以下のようなものがあります。
■ 就職や転職
■ 結婚
■ 出産・育児
■ 住宅購入
■ 子どもの教育
■ 親の介護
■ 退職
■ 老後生活
これらのライフイベントには、多くの場合大きな出費が伴います。
たとえば、結婚式や新居の購入、子どもの教育費など、人生の節目で相当額の資金が必要になります。そのため、ライフプランを立てる際には、各イベントにかかる費用を見積もり、計画的に準備しなければなりません。
また。これらのライフイベントに加え、病気や事故のような想定外の出来事にも備えておく必要があります。
人生の3大支出に備えよう
人生の3大支出とは、一般的に住宅資金、教育資金、老後資金の3つを指します。それぞれにかかる費用の目安は、以下のとおりです。
【住宅資金】
住宅金融支援機構の「フラット35利用者調査」(2023年度)によると、全国平均の住宅購入価格 は以下のとおりです。
■ マンション:5,245万円
■ 土地付き注文住宅:4,903万円
■ 建売住宅:3,603万円
■ 中古戸建:2,536万円
【教育資金】
文部科学省の「令和3年度子供の学習費調査」によると、子どもひとりあたりの幼稚園から高校卒業までの教育費の目安 は、以下のとおりです。
■ すべて公立の場合:約574万円
■ すべて私立の場合:約1,838万円
文部科学省の「私立大学等の令和5年度入学者に係る学生納付金等調査結果」によると、子どもひとりあたりの大学4年間の学費の目安 は、以下のとおりです。
■ 私立文系:約410万円
■ 私立理系:約542万円
【老後資金】
総務省「家計調査年報(家計収支編)2022年」によると、65歳以上の無職世帯(年金生活者)の月あたりの平均の生活費 は、以下のとおりです。
夫婦二人世帯:約24万円
単身者世帯:約14万円
なぜライフプランが必要なのか?
日々の生活が忙しく、ライフプランまで考える余裕がない人もいるかもしれません。なぜライフプランは必要なのでしょうか。
人生100年時代への対応
人生100年時代への対応は、ライフプランを考えるうえで避けて通れない課題です。厚生労働省の「令和5年簡易生命表の概況」によると、昭和45年の平均寿命は男性69.31歳、女性74.66歳でしたが、令和5年には男性81.09歳、女性87.14歳まで延びています。 この約50年間で10年以上も寿命が延びたことになります。
老後生活が10年も延びたのですから、老後資金の寿命も延ばさなければなりません。そのためには、現役時代から老後を見据えて計画的に資金を準備する必要があります。リタイアしたらどうしたいかを考え、そのライフスタイルに合った資金計画を立てていきましょう。
目標を「見える化」して準備できる
ライフプランでは、将来の夢や目標を「いつまでに」「いくら必要なのか」という形で明確化します。
たとえば、「いつかマイホームを購入したい」という漠然とした願望では、具体的な行動に移すのが難しいものです。しかし、「10年後に3,000万円でマイホームを購入する」と明確な目標を設定することで、必要な貯蓄額や資金計画を立てやすくなります。
具体的な数字がある目標は進捗状況を確認しやすく、モチベーションの維持にも役立ちます。ライフプランは目標を「見える化」し、将来に向けて準備を進めるための有効な手段といえるのです。
目標や夢を持って生活するとウェルビーイングにつながる
人生の目標や夢を描き、それに向かって主体的に生活することは、充実感や幸福感をもたらし、ウェルビーイングにつながります。お金を目標達成や夢を実現するツールと考え、オリジナルのライフプランを作っていきましょう。
目標達成に向けて努力する過程そのものが生きがいや幸福感をもたらし、結果として充実した人生の実現につながります。
ライフイベント表とキャッシュフロー表を作ってみよう!
これまでの内容を踏まえ、実際にライフプランを考えてみましょう。ライフプランは、以下のような手順で立てます。
1. ライフデザインの設計
2. ライフイベント表を作成
3. キャッシュフロー表作成
4. 定期的に進捗を確認
このうち、ライフデザインの設計では、人生で達成したい目標や夢、キャリア、家族関係についての目標設定をします。大きな目標がなくても「人生の3大資金」については、どうするか考えておきましょう。
たとえば、一生賃貸住宅で暮らすつもりの人は、その分老後資金を多く準備する必要があります。そのような個別の目標設定は必ず必要になるはずです。
ライフイベント表とキャッシュフロー表とは?
ライフプランを立てる際の代表的なツールに、ライフイベント表とキャッシュフロー表があります。
ライフイベント表とはライフプランに基づいて、人生で起こりうる主要なイベントを時系列で整理したものです。結婚、出産、住宅購入、子どもの進学、退職といった重要なイベントとその時期を記載します。
一方、キャッシュフロー表は、ライフイベント表に記載されたイベントに必要な費用や、日々の収支を数値化して表したものです。将来の収入と支出を年単位で予測し、資金の流れを可視化します。
まずはライフイベント表を作る
大まかなライフデザインをもとに今後のライフイベントを考え、ライフイベント表を作成してみましょう。ライフイベント表はExcelなどで簡単に作成できます。
以下は、夫(太郎)、妻(花子)、長男(一郎)、次男(二郎)の4人家族のライフイベント表の例です。
【4人家族のライフイベント表の例】
このように時系列のライフイベントとおおよその費用を記入すると、資金の準備もしやすくなります。実際のライフイベント表は、老後の分まで作成します。
ライフイベント表の内容からキャッシュフロー表を作る
キャッシュフロー表は、以下のように年ごとの収支を計算していきます。まずはライフイベント表のライフイベントを転記します。 収入の部には、家族それぞれの収入と贈与のような一時的な収入を記入し、合計を計算しましょう。
支出の部は費目ごとの合計や、一時的な支出(ライフイベント表の費用など)を記入し、合計を計算します。
収入合計から支出合計を差し引き、年間収支を求めしょう。前年の貯蓄残高と当年の収支の合計が当年の貯蓄残高になります。
【4人家族のキャッシュフロー表の例:お金の単位は万円】
キャッシュフロー表を作成すると、赤字が続いて貯蓄残高がマイナスになるようなケースも発見できます。その場合、節約、収入を増やすといった対策を検討します。実際の数字を見て問題点を自覚し、具体的な解決策を考えられる点が、キャッシュフロー表作成のメリットなのです。
簡単にライフプランが作れるツールを紹介
ライフイベント表やキャッシュフロー表は手書きもできますが、Excelで作ってもそれほど難しくありません。日本FP協会のサイト からフォーマットをダウンロードできます。
また、金融広報中央委員会「ライフプランシミュレーション生活設計診断」 のように無料で簡単にライフプランを作れるツールもありますので、活用してみましょう。
【FP相談から】ライフプランが役立つ事例を紹介
ライフプランの作成により、目標ができると具体的なアクションにつながります。最後に筆者のFP相談からライフプランが行動につながった事例を紹介します。
子ども3人を大学に進学させるための目標設定をした夫婦
【相談者のプロフィール】
Aさん:30代共働き夫婦
子ども: 3人(全員未就学)
世帯年収:750万円
Aさん夫婦は子ども3人を大学に進学させたいと考えており、それぞれが18歳までに500万円ずつ教育資金を準備したいという希望を持っていました。現在は問題なく生活できていますが、子どもが大きくなって教育費がかかり始めるようになると、貯蓄に回せる余裕があるのか不安を感じているとのこと。
そこで、キャッシュフロー表を作成して、子どもたちが進学するまでの家計の収支を確認してみました。その結果、今のうちが最も貯蓄しやすい時期であるとわかり、小学校卒業までに目標額の80%を準備する計画を立てました。
食費などの生活費は削らず、2台所有していた車を1台に減らして月々の固定費を抑え、浮いたお金を教育資金に回すようにしたそうです。
正社員からパートタイマーになって趣味の教室を始めた女性
【相談者のプロフィール】
Bさん:50代の女性会社員(既婚)
子ども:なし
世帯年収:650万円
Bさんは会社勤めのかたわら、自宅でアートの教室も開いています。できれば会社を辞めてアートの教室を中心に生活したいと考えていますが、年金が少なくなるのが心配でした。
そこで、FPとの相談でキャッシュフロー表を作成し、現在の貯蓄状況と将来の年金受給見込み額を詳しく分析。その結果、このまま正社員を続けても年金額の大幅な増加は見込めないとわかりました。
Bさんは勤務形態をパートタイムに変更し、自宅外で念願の教室をスタート。仕事と趣味の両立を実現し、新たな人生の楽しみを見出しています。
定年前に退職してFIREに踏み切った男性
【相談者のプロフィール】
Cさん:50代の男性会社員(独身)
子ども:なし
世帯年収:450万円
Cさんは職場の仕事のハードさや人間関係に疲れ、退職したいと考えていました。30代で離婚して以来ずっと独身で、5,000万円ほどの貯蓄があります。
そこで、この貯蓄でFIRE(Financial Independence, Retire Early:経済的自立を達成し、早期退職すること)ができないかと、FPに相談しました。
Cさんの場合、5,000万円を年4%で運用できれば、年間200万円の収益を見込めます。家計収支から質素な生活であるとわかり、ある程度運用がうまくいかなくても生活に支障はないと判断できました。
Cさんは念願だった早期退職を決意し、新たな人生のステージに踏み出しました。
まとめ:ライフプランで目標の「見える化」を
ライフプランは単なる将来の資金計画ではありません。自分らしい人生を送るための羅針盤となるものです。
ライフイベント表やキャッシュフロー表を作成すると、漠然とした将来の不安を具体的な数字として「見える化」できます。そして、その数字をもとに必要な対策を立てられます。
人生100年時代において、ライフプランは私たちの人生の選択肢を広げてくれる大切なツールです。今回紹介した事例のように、一人ひとりの価値観や目標に合わせた計画を立て、より充実した人生を歩んでいきましょう。
執筆:松田 聡子
明治大学法学部卒。ITエンジニア、国内生保法人営業を経て2009年よりFPとして独立。企業型確定拠出年金、FP受験講座講師、個人・法人への相談などに加え、2020年より金融ライターとして執筆を開始。保有資格はCFP®、DCアドバイザー、証券外務員二種。