京都を拠点に、繊細かつ独創的なデセールを手がけるパティスリー。新たに挑んだテーマは「水」だそうです。一見、味や形にはつながりにくい“透明な存在”を、どうやってスイーツとして可視化し、味覚として表現したのでしょうか。
作品【水/Sui】が生まれるまでの発想の背景から、実際に京都の名水地を巡って得たインスピレーションまで…。この商品に込められた思いやクリエイションの舞台裏を、ショコラティエの高木幸世さんに伺いました。
ーー【水/Sui】を生み出す上で、苦労したポイントは?
“水”というテーマが先に生まれたんですが、水玉や川とか、ダイレクトなものが作りたかったわけではなかったので、形を決めるのに時間がかかりましたね。
松下(「RAU」シェフパティシエ・松下裕介氏)とは、作りたいもののゴールが同じなんですが、アプローチは少し違います。
基本的にデザインは松下がやっていて、同時進行で私は味やストーリーを考えます。役割分担して、自分のプロフェッショナルな部分を全うする。その中で、お互い自分の中にある以上のアイデアが相手から出てきて、最後には合わさる。正直、しんどい時や、これでいいかなと思っちゃう時もありますが、相手が頑張っている姿を見ると、自分もやっぱり頑張ろうと思えるんですよ。
ーー【水/Sui】を通して、どんな体験をしてほしいですか?
京都の夏はとにかく暑いんですけど、それもひとつの魅力、風物詩だと思うんです。納涼という考え方も京都らしさの象徴だと思っていて、その精神性も含めて、“京都の奥行き”を届けられたら、という思いです。
たとえば、京都の歴史や文化を知りたいとなった時に、美術館に行くのは、若い世代にとっては少し敷居が高く感じるかもしれない。でも、お菓子であればもっと気軽にアートを楽しめるんじゃないかと思うんですね。私たちのお菓子がきっかけで、京都の文化や背景に興味を持ってもらえるとうれしいですね。
海外で高く評価される理由とは?日本との視点の違い
ーー「LA LISTE(ラ・リスト)」PASTRY AWARD 2025受賞について
お菓子業界、レストラン、ホテル…各業界のミシュランのような、フランスがベースの賞です。「LA LISTE JAPAN」もあるんですが、日本を飛ばして受賞させていただいて。世界の中で評価されたというのは、すごく名誉なことと思います。
ミシュランには、お菓子屋さんの賞ってないんですよ。まだ新しい賞ではありますが、これから世界中のペストリーシェフにとって、目指す場所になってくるのではないかと思います。
ーー世界に評価された背景は?
私たちの“考え方”そのものを面白いと感じてくださる海外のお客さまが多い印象は持っています。
海外のお客さんにとっては、「価値があるものには対価を払うのが当然」という考え方の中で、京都までわざわざ来て、それを体験すること自体に意味があると考えてくださっているというか…
受賞は励みになりますね。どこが正解なのか分からなくなることもあるのですが、「自分を信じてやるしかない」と思って進んできました。
世の中には今、いろんな面白い形のケーキがありますが、その中で私たちが選ばれたということは、「その先にある伝えたい想いやコンセプト」に目を向けてくれる人が海外にいるんだな、ということが分かって、うれしかったですね。
ショコラティエ・高木さんの今年の夏
ーー今年の夏にやりたいことは?
実は、私はあまり京都の夏の暑さを感じる生活をしていないんです。朝、涼しい内にお店に来て、帰りは日が暮れているのでもう涼しくて。京都に住んで7年くらい経つんですが、あまり楽しめてない気がします(笑)。
なので、今年は自分から京都の暑さを感じてみたいなと。歩く時には、細い路地などリアルな京都らしさを感じられる場所に行きます。そして「みんながよく見る視点」よりも、少しだけ目線をずらして見るようにしています。ちょっと見上げてみたり、いつもより低いところに目を向けてみたり。意外と、見落とされがちな場所や風景の中に、発見があるんですよ。
京都の直接的ではない言い方や、奥ゆかしい感じが好きなんです。今年の夏はそういった部分をさらに探していきたいですね。
--夏の涼み方はありますか?
7月頭に、松下の実家がある富山県に行ってきたんです。やっぱり、京都とは違う夏がありましたね。海から吹いてくるやさしい風のことを“あいの風”と言うらしくて。私は山育ちなので、海沿いで過ごすことが新鮮でした。地方など場所によって夏って全然違うということを感じたので、いろいろな場所に行ってそこの夏を体験したいですね。
最近、マレーシアなどシーズンがないところに行くことが多かったんです。そこで改めて、シーズンっていいなと思いました。食べ物はもちろん、装いや気持ちも変わって、生活のメリハリにもなる。日本って、食材も本当に豊かなんだなと再確認することもできました。
暑さを経験したあと、次の季節には一体どんなデセールが生まれるのか?
これからの高木さんの活躍に注目です!