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第一声で関係が変わる!脳科学が導くやさしいコミュニケーション術 黒川伊保子さんインタビュー(vol.1)

人工知能の視点から「ことば」と「人間」の本質を追究し続けておられる研究者の黒川伊保子さん。vol.1では「ことば」や「第一声の扱い方」が、家族やパートナーとの関係を大きく変えるという視点についてお話を伺います。

相手の気持ちをまず受け止める

―― 日常で特に意識されていることは何でしょうか?

黒川:相手が何か言った時に、第一声を否定しないことは徹底しています。
違うと思っていても、その人がそう思ったことには必ず意味があるんです。私は脳が瞬時にどう信号を流すかを研究しているのですが、どの信号も生存のために出ているんですね。例えば不満を言う人も、その不満の信号で自分を守っている。攻撃からいち早く身を守るために、脳が警告として口に出させているんです。
イライラしやすい人は血糖値の乱高下や肝臓・腸の炎症など、体の問題を抱えていることが多いです。免疫力が低く、ちょっとしたことで緊張して身を守ろうとする。だからイライラも不満も不安も、その人の体調からくる脳の結果なんです。私はその脳の信号をまず尊重します。当然「ふざけんな」と思うこともあるけど、その人の脳がそうせざるを得なかった理由があると思うと、気持ちが変わるんです。

共感はまず言葉にしてみることから

―― 何か理由や背景があっての言動なんですね。

黒川:具体的なことで言うと、およめちゃんが突然大きな荷物を持って部屋から出てきたので『今日どこか行くの?』と聞いたら『青森』って。『じゃあ、もしかして今日泊まりとか?』って聞くと『そう、温泉』って言ったんです。3歳の子どもを置いていくわけだから、私にもちょっと覚悟がいる。「いや、事前に言ってよ~」と一瞬思ったけれど、もしかすると申し訳なさすぎて、脳が言い出しにくくて今日まで言えなかったかもしれない。
私は“第一声をダメ出しで始めない”と覚悟を決めているので、『いいねえ、秋深い温泉』と言ったら、『そうなのよ、楽しみ』と嬉しそうな笑顔だったんです。だから『楽しんでおいでね』と言った後に、『でもね、せめて前日に言ってね。お義母さん、びっくりしちゃうから』と伝えました。彼女のいいところは、こういうとき素直に『うん、これからは言うね』って言ってくれるところ。それで十分。笑顔でお土産を抱えて帰ってきてくれたし。
私は脳神経回路を研究してきたので、この人がこうしたのには意味があると思える。本人は言い忘れたつもりでも、脳が言いにくいと思って忘れさせたのかもしれないし、そう考えると優しい気持ちになれる。“脳を知る”って、そういうことです。
もちろん言われた瞬間、心の中で「せめて前の日に行ってよ~」と思うけどね(笑)。でも、彼女が笑顔なら、そのほうが私も嬉しい。瞬間の気持ちなんてどうだっていい。
私は、よく男性から『共感できないのに共感したふりをするのは卑怯では?』と聞かれます。私は即座に『いいんですよ』と言うんです。だって共感の言葉をかければ、奥様はきっと嬉しそうな顔をする。その顔を見たら、自分も嬉しくなる。共感なんて後からついてくるものだから、まずは言ってみればいい。
60歳を過ぎた女性は、若い女性を安心させるために生きればいいと思うの。叱るためにはいない。『大丈夫、大丈夫』って言ってあげるのが役目なんだからさって思っています。
次号は夫婦間や子どもへの接し方についてお伺いします。
お楽しみに!