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イタリアに学ぶ! ウェルビーイングなライフスタイル

イタリアの人々は、食事、恋愛、そして日々の暮らしを心から楽しむことで知られていま
す。彼らの陽気な性格やリラックスしたライフスタイルは、忙しい日本人にとって学ぶべき点が多いと考えられます。この記事では、フリーマガジン「イタリア好き」編集長のマッシモ松本氏がイタリア人の暮らし方と日本人の生活スタイルの違いを探りながら、イタリアから学べるウェルビーイングの秘訣を紹介します。

「Buongiorno!」のひと言から広がる世界 コミュニケーションの第一歩はきちんとした挨拶

シチリアの路地。右端がマッシモ(写真:篠利幸)

今から20年ほど前、シチリアを訪れたときのこと。ひょんなことから路地でランチをしていた家族に仲間に入れてもらった。気持ちのいいもてなしのお礼にと、一緒に旅をしていた友人がナポリ民謡を歌ってプレゼントすると、隣に座っていた女性がいたずらっぽい笑顔で「あんた、下手くそね!」と彼の歌を制して続きを歌い出した。Tシャツ姿の普通のおばさんの歌は、あまりにもキレイなソプラノで僕は驚いた。いつもこうやってみんなで歌って楽しんでいるのだろうか。そんな日常に、ただの観光客を加えてくれた。初めて会った人同士でこんなことが起こるなんてと感動した。しかも、場所は路地だ。この国はおもしろい! ここから僕とイタリアの長い付き合いが始まることとなる。

イタリアでは、国籍や職業、立場などによるコミュニケーションの隔たりを感じることは少ないように思う。例えば、店に入る際、日本では客側が「いらっしゃいませ」と迎えられ、「ありがとうございました」と見送られるが、イタリアでは、客が「Buongiorno(ブォンジョルノ/こんにちは)」や「Ciao(チャオ/やあ)」と言って入店して、「Grazie(グラツィエ/ありがとう)」「Arrivederci(アリヴェデルチ/さようなら)」と言って店を出る。黙って入店するほうが失礼に当たってしまう。「お客様は神様です」ではないし、商品を作っている人が偉いわけでもない。買い物ひとつでも人と人との触れ合いなのだ。だから、イタリアでは挨拶をすることでコミュニケーションを取りやすくなるし、親しくなれる第一歩になる。

プーリアのベーカリーにて(写真:松下梨恵)

先日のプーリア滞在では、早朝ランニング中にどこからともなく薪窯で焼くパンのいい匂いが漂ってきた。匂いを頼りに進んでみると、店の中で職人がパンを焼いている。窓から様子を覗いていたら職人と目が合ったので、「Buongiorno」と挨拶をした。すると、入ってきて見てみろと言う。そうやって一言挨拶をするだけで少し彼らに近づける。あとは知っている単語を発してみればぐっと距離が縮まる。

「マッシモは家族みたいなものだから」と訪れるたびに大歓迎してくれるマルケでトラットリアを営む家族だって、ひょんなことをきっかけに交流が始まった。取材中に偶然立ち寄った店だ。時間がないので、パニーノだけ頼んですぐに出るつもりだったが、店内の雰囲気と運ばれているパスタを見て、どうしても食べたくなり、時間がないけど食べることにした。そして、名物だというカルボナーラを注文すると、今まで食べたことのない見た目と味で感動。オーナーに話を聞くうちに親しくなり、いろいろと料理を運んできてくれた。楽しく、おいしい時間を過ごすことができて、それから長い付き合いが始まった。

マルケのトラットリアで出会った感動的なカルボナーラ(写真:萬田康文)

こういうことがイタリアではよく起こる。僕が何か特別なことをしたわけでもなく、こちらから胸襟を開いて入っていけば、温かく受け入れてくれるのがイタリア人だと思っている。ただ、おいしい、うれしいなど気持ちはストレートに表現して、常にオープンでいる。例え僕が日本語を話して通訳を介していたとしても、相手の目を見て話す。そうすれば、向こうも心を開いてくれる。今は、翻訳アプリだってある。目を見てカタコトのイタリア語を言葉にするだけでも、あなたと話したいという気持ちは伝わるはずだ。

そうやってイタリア人と触れ合い、つながりが増えていくことで、僕は新しい世界を広げてもらっていると思っている。日本でも、イタリアについて発信するなかで出会った人は、同じ感覚を持っている人が多く、どんどん仲間が増えていく。そして、読者の皆さんが誌面で紹介した人のもとを訪れてつながっていくことも、僕のウェルビーイングになっている。
松本浩明(まつもと・ひろあき)
フリーマガジン『イタリア好き』発行・編集人。 人が好き、旅が好き、出会いが好き、食べることが好き、愛することが好き、楽しいことが好き、 そして何より“イタリアが好き”。2010年3月に『イタリア好き』を創刊し、年4回、現在まで59冊を発行。 取材で出会ったイタリア人とイタリアの魅力を誌面やSNSを通して発信を続けている。