ウェルチル

人生100年を楽しむためのウェルビーイングメディア

画像

vol.26コロナ禍に大改革。城崎温泉「但馬屋」の若女将、柴田麻未さんが宿にかける思いとは 【私と誰かにちょっといいこと】

兵庫県・城崎温泉にある「但馬屋」は、2026年に創業100年を迎えた老舗旅館。大阪出身の若女将、柴田麻未さんは、大学生の頃に城崎の観光大使を務めたことをきっかけに、この町とのご縁が生まれました。
結婚後、旅館の仕事を始めて数か月でコロナ禍に突入し、先が見えない日々の中で宿の改装を決意。お客様はもちろん、働くスタッフにとっても心地よい宿を目指す柴田さんに、若女将としての思いや仕事への向き合い方を伺いました。

大阪から城崎へ。手探りで始まった若女将の仕事

――城崎との出会いは大学生の頃だったのだとか。

城崎の観光大使を関西圏から募集していることを知り、応募をしたところ、ご縁があって、大使を務めることになりました。その時に今の夫と知り合って結婚。少ししてから旅館に入りました。
その数か月後、まさにこれからというところで新型コロナウイルスが流行し始めたんです。
――若女将のお仕事は大変な状況から始まったのですね。

はい、接客業自体も経験がなく、未知の世界でした。フロントや客室係のスタッフ、女将にいろいろと教えてもらいながら、旅館全体の仕事を覚えるところから始めました。

分からないことだらけの中でフロントに立つことになり、不安や戸惑いが隠し切れなかったことを覚えています。『今日からこの方が若女将を務めます』と紹介されたスタッフのみなさんも、突然のことで戸惑ったことと思います。

1日も早く仕事に慣れ、スタッフとの信頼関係を築くため、できるだけ多くコミュニケーションを取り、一人ひとりの仕事内容を聞きながら、少しずつ理解を深めていきました。

大変な時期から女将としてお仕事を始めることになったのですが、スタッフの協力や、『また来ますね』『笑顔が素敵!』など、お客様からの嬉しいお言葉を励みに、ここまで来ることができました。
城崎温泉 但馬屋 柴田麻美

旅行はなくならない。そう信じて打った積極的な一手

――コロナ禍では、ご主人とともに旅館の改装を進められたそうですね。

宿の改装は、私と夫が中心になって進めました。100年続く旅館だけに、老朽化による不具合もあちこちにあり、なかなか手をつけられずにいたこともたくさんありました。マニュアルの整備も、そうした課題の1つです。

コロナ禍でお客様をお迎えできないという大変な状況でしたが、視点を変えれば「十分に時間をかけて設備や体制を改善できる」ということ。このタイミングを生かして何ができるかと皆に話を聞く中で、改装の話が出ました。
――先が見えない時期に「縮小」ではなく、「改装」という選択肢を取ることには勇気が必要だったのではないでしょうか。

コロナ禍に受けたセミナーで、講師の方がおっしゃっていた言葉が印象に残っています。

『死ぬ前にやりたいことを尋ねると、旅行と答える方が多い。今はコロナで大変な時期ですが、旅行はなくならないし、必ず戻ってきます。だから今、頑張っていきましょう』と。

私自身も旅行が好きなので、その言葉を聞いて「その通りだ」と思いました。

何か月後、何年後に旅館の営業を再開できるか、分からない状況でしたが、お客様が戻って来られた時のために、より良い宿にしておきたいと考えたんです。夫の両親も「2人が良いと思うことを進めればいい」と後押ししてくれました。
城崎温泉 但馬屋 柴田麻美

お客様の満足とスタッフの働きやすさを考えての大改装

――改装する箇所はどのようにして決められたのでしょう。

分からないことだらけだったので、経営陣やスタッフに話を聞いたり、お客様のアンケートを参考にしたりしながら、まずは現状を見直すことから始めました。

スタッフに「お客様からよく褒められること」「自分自身が働いていてやりづらいこと」「もっと良くしたらいいと思うこと」などを聞き取り、お客様の満足度を上げることはもちろん、スタッフがより働きやすくするには何をすればよいかを考えました。さまざまな案が出ましたが、最終的に水回りと客室を改装することに決めました。
――具体的にはどのような改装をされたのですか。

当館は1階に調理場があり、2階と3階に客室があります。
以前は食事用のリフトが2階までしか上がらなかったため、2階から3階へはスタッフが運んでいました。まずはその負担を軽減したいと考えたんです。
そこで、客室を1つ減らして新しいリフトを作り、料理を1階から3階にリフトで上げられるようにしました。

他にも、休憩所だったスペースを取り込んで客室を広くしたり、お風呂を改良したり。コロナ禍からスタートした改装は、全体で約3年をかけて進めました。
城崎温泉 但馬屋 柴田麻美

若女将の名前にちなんだ柄があしらわれた洗面台

「日本一浴衣の似合う町」城崎で、浴衣選びをもっと楽しく

――浴衣のラインアップにも力を入れていらっしゃるのですね。

城崎は「日本一浴衣の似合う町」を掲げており、どの旅館でも浴衣を用意しています。ただ、同じ会社から浴衣を仕入れると、どうしてもデザインが似通ってしまうんです。

当館は20代、30代のカップルやご夫婦のお客様が多いということもあり、浴衣選びをもっと楽しんでもらえるようにしたいと考えました。そこで、新しいデザインの浴衣を増やたり、サイズ展開を豊富取り揃えることにしたんです。
城崎温泉 但馬屋 柴田麻美
――お風呂も新しい空間に生まれ変わったのですね。

但馬屋は「唯一無二」をテーマに掲げています。お風呂というとヒノキ風呂や岩風呂など、和の雰囲気を思い浮かべますが、それとは違ったものを作りたいと思いました。
城崎温泉 但馬屋 
そこで、3つあるお風呂のうち1か所を改装。「光と影の癒しの空間」というコンセプトのもと、暗い中でライトが光っているような空間を作りました。
城崎温泉 但馬屋 


以前からある畳敷きのお風呂は、幼いお子様や足が不自由な方が座ってお風呂に入れると、喜んでいただいています。
城崎温泉 但馬屋 

夫婦で話し合うこれからの但馬屋について

――ご主人とは、普段から宿づくりについて話し合われるのですか。

仕事でもプライベートでも、いつも旅館のことを話しています。プライベートで旅に出かける時も、行く先々で『こういうの、うちの旅館にもいいね』と話したり。

夫はいつも、私にしかできないことをやってくれたらいいと言ってくれます。まだまだできていないことが多いのですが、聞いたり学んだりしながら、少しでも力になっていきたいと思っています。
――創業100年の宿で新しい取り組みを進める背景には、どのような思いがありますか。また、これからさらにチャレンジしたいことがあれば教えてください。

子どもが生まれたこともあり、私たちの代でもなるべく良いものを残し、将来の選択肢を広げてあげたいと思っています。次の100年に向けて、但馬屋という旅館を継承してもらえれば嬉しいです。

そのためにも、お越しくださるお客様1人ひとりを大切にし、「また来たいな」と思っていただける場所づくりを心がけ、常にそれを具現化するために試行錯誤を重ねていきたいと思っています。
城崎温泉 但馬屋 柴田麻美

城崎あってこその但馬屋。町全体でお客様をお迎えする

――城崎を訪れたらどのような過ごし方がおすすめですか。

やはり外湯めぐりですね。町内には6か所のお湯があり、それぞれ趣が異なります。但馬屋のお風呂に入りながら、外湯も楽しんでいただきたいと思います。

昭和から続く遊技場も、お客様に人気があります。
――おすすめのグルメも教えてください。

冬は何といってもカニですね!2026年は、11月6日からカニのシーズンが始まります。

また、1年を通じて楽しんで頂ける但馬牛も本当においしくて、おすすめです。日本海も近いので、魚介類もぜひ味わっていただきたいですね。
――観光大使も務められた柴田さんから見て、城崎はどのような町ですか。

城崎には「共存共栄」の精神があります。自分たちが良ければよいということではなく、皆で栄えていきましょうという考え方です。私も、これはとても大事なことだと思っています。

大阪から来た私にとって、町の方との距離が近く、皆さんが温かく迎え入れてくださったことが、とても嬉しかったんです。町全体で協力してお客様をどうおもてなしできるかと考えていて、みんなが「城崎そのものを楽しんでもらいたい」という気持ちを強く持っています。

但馬屋という旅館も、城崎という場所があってこそ。まずは多くの方に城崎を知っていただいて、城崎が有名になること。その上で私たちの宿を選んでいただけたなら、それはとても嬉しいことですね。
◆城崎温泉 但馬屋
ホームページ

◆カニの解禁日:2026年11月6日
取材を終えて

コロナ禍という逆風の中で新しいことにチャレンジするということは、私たちが想像する以上に大変だったに違いありません。柴田さんの言葉からは、「より良い宿にしていくんだ」という、若女将としての覚悟のようなものが伝わってきました。
また、「但馬屋は城崎あってこそ」という言葉からは、城崎という土地への愛情も感じられます。柴田さんの思いと努力の積み重ねが、次の100年につながっていくのでしょう。
但馬屋こだわりの浴衣を着て外湯をめぐり、カニや但馬牛を味わう。城崎でのんびり過ごす旅に出かけたくなりました。
ウェルチル
番組「ウェルチル 私と誰かに、ちょっといいこと」

関西テレビ放送
木曜よる10時54分放送(関西ローカル)
次回もお楽しみに。