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「孫に一目置かれる」かっこいいシニアへ。平均66.9歳のeスポーツチームと専門家が語る人生の楽しみ方

人生100年時代。「退職後の時間をいかに過ごすか」について、考えたことはありますか?
「高齢者の孤独」や「生きがいの喪失」が社会課題として浮き彫りになる中、新たなコミュニティの形、そして認知機能維持・向上の手段として「eスポーツ」が注目を集めています。
そこでご紹介するのが、秋田県を拠点とする平均年齢66.9歳のシニアプロeスポーツチーム「マタギスナイパーズ」です。本記事では、メンバーのひろBooさんに、日常生活や心身にどのような変化が見られたかを取材。eスポーツと生活との関わりについて研究する、備前嘉文教授にも同席いただき、「なぜゲームが高齢者に良い影響を与えるのか」を学術的な視点から解説していただきました。
参加メンバー
ひろBooさん マタギスナイパーズ二期生
土門悠さん  株式会社エスツープレイスブランディング部部長、マタギスナイパーズ運営担当
備前嘉文さん 國學院大學人間開発学部健康体育学科 教授

「何もしない不安」から始まった、等身大の新たな一歩

——ひろBooさんがチームに加入したきっかけを教えてください。
ひろBooさん
私は定年退職後、最初は「とにかくゆっくり休もう」とダラダラ過ごしていました。しかし1ヶ月ほど経つと、階段の上り下りだけで体力の衰えを感じるようになり、社会とのつながりが減っていく不安も覚えたんです。そんな時にSNSで二期生募集を知りました。元々軽いゲーム好きではありましたが、高度なスキルがあったわけではありません。「何か新しい世界に飛び込んでみたい」という純粋な好奇心が応募の動機でした。
——チームのスローガン「孫に一目置かれる存在」には、
  どのような思いが込められているのでしょうか。
土門さん
秋田県は高齢化が進んでいますが、それを前向きなエネルギーに変えたいという思いがあります。お孫さんがいる方にとっては「かっこいいおじいちゃん、おばあちゃん」を目指す目標になります。
また、お孫さんがいない方にとっても、若い世代のカルチャーを理解して世代間ギャップを埋めるきっかけになります。
ひろBooさん
私自身、加入当初は孫がいませんでしたが、今は2歳の孫がいます。マタギスナイパーズは若い世代に向けて、「年寄りもかっこいいんだ」と発信しているイメージがありました。「年寄りなのに」みたいな考えはない世界なのかなと思います。
——最高齢の方は何歳ですか?
土門さん
78歳ですね。平均年齢は66.9歳(2026年7月時点)です。ほぼ67歳ですね。
ひろBooさん
僕はちょうど平均年齢です。
——メンバーの皆さんが結成前にどのような生活を送っていたか、ご存知ですか?
ひろBooさん
実は、知らないんです。メンバー同士は本名や前職の肩書を明かさず、ゲーム内のニックネームで呼び合っています。過去の立場や失敗にとらわれず、「今の素の自分」としてフラットに付き合える居場所があることは、想像以上に心地よいものです。

シニア世代が抱える「デジタル不安」、心理的ハードルを乗り越えるには

——未経験からのスタートにあたって、デジタルツールを扱うことに対する不安はありましたか?
ひろBooさん
パソコンの専門知識もありませんでしたし、高価な機材をいきなり揃えるのはハードルが高いと感じていました。しかし、チームでは段階的な講習や機材のサポート体制が整っていたため、無理なく始められました。最初は画面酔いもありましたが、短時間の練習から徐々に身体を慣らしていくことで、1ヶ月ほどで快適にプレイできるようになりました。
——シニア世代の方がデジタルツールに触れる際、
  どのような心理的ハードルがあるのかをお聞かせください。
備前教授
シニア層がこれからeスポーツを始めるとき、一番の心理的なハードルになるのは、「ゲーム=悪」といった固定観念だと思います。私も子どもの頃、『ゲームばかりしていないで、勉強しなさい』とよく言われていました。今なお、年配の方の中には、ゲームに対する抵抗感を抱いている人も少なくないと考えられます。しかし、ファミコンが発売されたのは1983年です。つまり、今70歳の方は発売当時27歳、60歳の方なら17歳です。若い頃、ゲームに親しんでいた世代が、これからシニア層になることを考えると、今後はゲームへの心理的なハードルも、徐々に低くなっていくのではないでしょうか。自動車レースやパズル系のゲームであれば、シニアの方たちもみんなと一緒に楽しみやすいとの見解もあります。
——マタギスナイパーズでは、「FPS(ファーストパーソン・シューティング)」※1をプレイしていますよね。他のジャンルのゲームをプレイする予定はありますか?
土門さん
FPSを選んだ理由は、チーム名の「マタギスナイパーズ」が先に決まっていたためです。秋田にはマタギ文化が根付いているため、シューティング要素のあるFPSがチームのイメージと合うと考えました。「落ちゲー」※2も悪いわけではありませんが、世界的に見ると市場規模が小さい点がデメリットです。一方、FPSは世界中で多くの人がプレイしており、eスポーツの競技シーンも非常に盛り上がっています。私たちは強さや競技性を重視しているので、大きな競技シーンがあるタイトルであれば、FPS以外のジャンルにも今後挑戦する可能性があると思っています。

※1  FPS(ファーストパーソン・シューティング):
   プレイヤー自身が「一人称視点(主人公の目線)」で銃や武器を使い、敵と戦うアクションゲームのジャンル。

※2 落ちゲー:上から落ちてくるブロックやピースを並べて消し、得点を競うゲームのこと。

心と身体に無理のない、「スポーツ」としてのゲームとの付き合い方

——ひろBooさんは、プレイヤーとして体調管理の面で気をつけていることはありますか?
ひろBooさん
適度な休憩とストレッチを必ず挟むようにしています。毎日午後1時から5時までの練習時間も、しっかり休憩を取りながら行っています。仲間と一緒に声を掛け合いながらプレイするため、単なる作業にならず、毎日の生活に規則正しいリズムと大きなハリが生まれました。
——FPS(ファーストパーソン・シューティング)の練習はハードな印象がありますが、いかがですか?
ひろBooさん
反射神経の強化が課題だと感じています。現在は100体のロボットが次々に出現する練習場で、100秒以内に全てを倒すトレーニングを行なっています。1秒ごとにロボットが現れるため、素早い対応が必要です。練習を重ねた結果、プレイを始めた頃よりタイムは90秒台まで縮めることができました。体調不良の日は成果が出にくいですね。
1日でも練習を休むと動きが鈍くなる不安があるので、毎日練習を継続しています。
——備前教授に伺います。こうした練習においては、やはり瞬発力と判断力が必要になるんですよね?
備前教授
はい。ゲームをプレイする際には、コントローラーを操作するために指を素早く正確に動かす必要があります。そのため瞬発力や判断力はとても重要になります。年齢が上がるごとに細かい作業が苦手になる傾向があるので、シニア層の人には少し難しく感じられるかもしれません。。一方、仲間と協力してプレイする場面では、目標の達成に向けて粘り強く取り組む力や、他者と円滑にコミュニケーションを取りながら協力する力が求められます。こうした力は、「非認知能力」と呼ばれ、今とても注目されています。非認知能力は現役世代にとって社会で活躍するために重要な力であるのはもちろんのこと、シニア層にも大切な力だと考えています。

ゲームの世界で生まれる「つながり」が、高齢者の「孤独感」の解消に

——eスポーツを始めてから、日常の孤独感や人との関わりに変化はありましたか?
ひろBooさん
退職後は家族と同居していても、社会的な役割が減ることでどこか孤立感がありました。しかし今では、毎日事務所やオンラインで仲間と会話をし、時には海外のシニアチームと対戦することもあります。言語が異なっても、ゲームという共通言語があれば、一緒に笑い合えます。現役時代にはなかった新鮮な体験です。
備前教授
退職後、男性は地域の人たちとの人間関係に馴染みにくいケースが多いと言われます。しかし、バーチャルなコミュニティは過度な付き合いを必要とせず、適度な距離感を保ちやすいのがメリットです。猛暑や悪天候で外出が難しい時期でも、自宅から安全に社会とつながり続けられる点は、現代の孤立対策として非常に有効だと言えます。
——今後の目標と、新しい一歩を踏み出したい読者へのメッセージをお願いします。
ひろBooさん
チームとしては世界大会への出場を視野に入れて活動しています。しかし、最も大切なのは順位や結果そのものよりも、「いくつになっても新しい挑戦を楽しんでいる自分」でいることです。何かを始めるのに遅すぎることはありません。大げさなことでなくても、少しでも興味を持ったことに素直に手を伸ばしてみてほしいですね。
備前教授
ひろBooさんの素晴らしさは、過去の経験やプライドに固執せず、新しいことを素直に学び、その経験を楽しんでいる点です。eスポーツは自身でプレイするだけでなく、観戦するだけでも家族や友人との共通の話題が生まれ、孤独感を軽減する効果があります。まずは他の人がプレイする様子を「見る」ことから始めるのも、立派な第一歩です。
ひろBooさん
現役時代の肩書を一度脇に置き、新人の気持ちで新しい扉を開けてみると、思っていた以上に優しい世界が広がっています。辛い我慢を続けるのではなく、楽しいと思える時間を少しずつ増やしていく生き方を、これからも仲間と共に追求していきたいと思っています。
マタギスナイパーズの取り組みは、eスポーツが一部の特別な人だけのものではなく、誰もが無理なく社会とつながり、日々の生きがいを生み出せる有効な手段であることを示しています。大切なのは、最初から完璧を目指したり高価な環境を揃えたりすることではなく、「少し面白そう」という素直な好奇心に従って小さな一歩を踏み出すことだと感じました。ひろBooさんたちの前向きな姿勢は、シニア世代はもちろん、若者や現役世代にとっても自分らしい生き方を見つめ直す素晴らしいヒントになるのではないでしょうか。

取材・執筆/宅野美穂
まとめ
・認知機能の維持・向上にも期待が寄せられる「eスポーツ」という新しい健康習慣。
・平均年齢66.9歳のシニアプロチームが、ゲームの新たな可能性を発信。
・適度な休憩やストレッチを取り入れながら、健康的に楽しめるのも魅力。
・あなたもゲームを通じて、世界中の人とつながる一歩を踏み出してみませんか。