京都を拠点に、繊細かつ独創的なデセールを手がけるパティスリー。挑んだテーマは「水」だそうです。一見、味や形にはつながりにくい“透明な存在”を、どうやってスイーツとして可視化し、味覚として表現したのでしょうか。
作品【水/Sui】が生まれるまでの発想の背景から、実際に京都の名水地を巡って得たインスピレーションまで…。この商品に込められた思いやクリエイションの舞台裏を、ショコラティエの高木幸世さんに伺いました。
RAUが追求する「デセール」の概念
ーー「デセール」とは、どのような存在でしょうか。
「デセール」は、一般的にはプチガトーとかケーキなどと呼ばれるものです。私たちは、あえて「ケーキ」ではなく「デセール」と呼んでいます。「ケーキ」と呼ぶと、どうしても、ケーキにしては「値段が高い」「大きい」「複雑すぎる」といったように、枠組みの中で見てしまう。表現の幅を狭めてしまうのではないかと考えました。
私たちは“情景を形状に”というコンセプトを持ってデセールを作っています。ただ目にしたものを形にするのではなく、私とシェフの松下(「RAU」シェフパティシエ・松下裕介氏)、2人のフィルターを通して、見たものや感じたことを形にしていきます。たとえば、山を見たとしても、山の形を模倣するのではなく、その山から“何を感じたのか”まで落とし込んで、山を表現する。それが私たちのデセールの特徴です。
もともと松下は、東京でアシェットデセール(皿盛りデザート)のお店を営んでいて、私も一緒に働いていたのですが、お皿の上で作る自由さがある半面、「お皿」という枠に縛られる不自由さも同時に感じていました。
その頃、料理を“流木”の上に盛り付けたりするお店も出てきて、お皿という概念が自由だなと感じたんです。
私たちが「RAU」で作る商品は、デセールそのものの形をお皿と捉えようと。立体的な造形の中に、アシェットデセールのような世界観や自由さを詰め込みたいと思ったんです。
透明な存在「水」を、どうスイーツで表現したのか?
ーー【水/Sui】というデセールが生まれた背景を教えていただけますでしょうか?
「なぜ夏に京都に行くのか?」という問いがスタートでした。京都の夏はとても暑いですよね。多くの人は暑さを避けて、涼しい地域に向かいますが、「暑い夏に京都に来る意味は?」と自分に疑問を投げかけて、その中で“納涼”というワードが浮かんできました。
暑さから逃げるのではなく、「これが夏だよね」と、暑さを受け入れながら楽しむという、京都らしい感性があるんじゃないかと感じたんです。それを今回テーマにしました。
京都では、川床や貴船、鴨川の畔など、人が自然と集まる水辺が多くあります。直接水の中でバシャバシャするような感じではなく、“水に近い距離で、涼し気な雰囲気や空気を感じる”ことが、京都の人の昔からの“涼”の楽しみ方なのではないかと気づきました。
今回のデセールの形は、雫が集まってくるようなイメージです。水だけでなく、人もそこに集まってくるような、そんな印象を形にしました。表面には透明感のあるジュレをあしらっていて、まさに涼しげな“水の気配”を感じられるようにしています。
そして、“納涼”のために京都では夏に何をするかを考えました。京都では、川床や貴船、鴨川の畔など、人が自然と集まる水辺が多くあります。海やプールなど直接水の中でバシャバシャするような感じではなくて。あくまでも水に近い距離で、その場所の涼し気な雰囲気や空気を感じることが、京都の人の昔からの“涼”の楽しみ方なのではないかと気づきました。
今回のデセールの形は、雫が集まってくるようなイメージです。水だけでなく、人もそこに集まってくるような、そんな印象を形にしました。表面には透明感のあるジュレをあしらっていて、まさに涼しげな“水の気配”を感じられるようにしています。
ーー色はどういうイメージですか?
実際に貴船などを訪れて、ミストのような雰囲気をどう表現するかをすごく考えました。水色のゼリーでは、「水の中に入って遊ぶ」ような印象になってしまう。“水を感じるけれども直接水に触れてはいない”距離感を表現するため、水が集まる部分は透明なジュレや水玉で表現しました。ジュレの部分には、伏見の日本酒を使っているんですよ。そして、黄色の部分は、水辺にいる人たちの賑わいを表しています。
このデセールは、アイスデセールなんです。中には抹茶のソースが入っていて、割るとトロっと出てくる、 “半凍り”の質感を目指しました。
味全体としては、「宇治金時」をイメージしました。昔、清少納言が削り氷を食べていて、それが今のかき氷になったそうで、京都ではその時代から、「納涼」という文化があったことがすごく面白いと感じましたね。宇治や丹波も近く、いい食材が集まったことで自然と宇治金時が生まれたのかな?なんてことも考えました。
次回、高木さんが【水/Sui】に込めた願いとは?今年の夏こそしたい体験も…
<後編>はこちら!
RAU
住所:京都市下京区河原町通四条下ル2丁目稲荷町318番6
GOOD NATURE STATION 3F
営業時間:11:00-19:00(Cafe L.O.18:30)
※日程・営業時間は変更となる場合がございます。
公式HP:
https://rau-kyoto.com/