ウェルチル

人生100年を楽しむためのウェルビーイングメディア

画像

脳の仕組みを知って人間関係を円滑に!黒川伊保子さんと学ぶ“人生に効く脳科学”

日々、悩みがちな人間関係を、“脳”という切り口から考え直してみませんか? 感性アナリスト・随筆家の黒川伊保子さんが、脳から見る“人間関係をうまく乗り切る方法”を教えてくださいました。
【登壇者プロフィール】
黒川伊保子さん
感性アナリスト/随筆家
人工知能研究の現場で脳を機能分析してきたシステムエンジニア。脳の動きを読み解くことで「人の気持ちを理解する」スペシャリストとして知られる。AIの開発にも携わり、男女の感性差や言葉の発音が脳に与える影響を追究し、コミュニケーションサイエンスの新領域を拓いた第一人者。脳科学の治験をマーケティングに活かすコンサルタントでもあり、講演会やさまざまなメディアに登場。「妻のトリセツ」など、人間関係のイライラ、モヤモヤを解消する、トリセツシリーズは累計100万部を超えるベストセラー。

まずは、一番身近な“家族”との関係を脳科学で分析

華やかなワンピースで登場した黒川伊保子さん。知性とぬくもりあふれるやわらかな声で、客席に語りかけます。

今回のトークのテーマは「人生に効く脳科学〜思い通りに生きるための対話のトリセツ〜」です。

『例えば、受験生の息子がダラダラしていたら、「ダメよ!」って叱りたくなりますよね。でも“ダメ出し”は脳には逆効果』と黒川さん。『「走っちゃダメ」と言われると、脳は「走っちゃ」のところで走る信号を強めます。だから止まれない。受験生に「ダラダラしてちゃダメ」と叱るのも同じ。「ダラダラ」のところで脱力の信号を強めるので、ダラダラから抜け出せないの』

では、どう声をかければいいのでしょう?『一問だけ解くことを誘導します。我が家は「お母さんのために、一問だけ、一問だけ解いて」と懇願しながら、脚にすがりつきました。すると、しょうがなく一問だけやるんです。でもそのままスイッチが入って他の問題も解き続けるんですよ。もちろん「一問だけ解いたら、ココア入れてあげる」というスマートな言い方もあると思います』と説明すると、客席からも感心した頷きが続々と。

『これは自分にも使えます。“お皿一枚だけ洗ったらコーヒーを飲もう”と決めると、気づけば全部洗えてしまうんです』と、日常に落とし込める話が次々に飛び出します。

黒川さんが繰り返し強調するのは、“認めること”の大切さ。『成績が悪くても「分数は完璧やん」「前にミスしたところ、今日は合っているね」と、まずできている部分を認めてあげましょう』。

こうして各論で認められると、脳は、自らが目論見通りに動いていることを確認できるので、“万能感”や“できる自分”が生まれ、結果的に行動が変わっていくそう。

さらに会場から笑い声があがったのは、夫婦の会話例。

『奥さんがごはんを出してくれたら、「おいしいね」だけではなくて、「このナス、味が染みてておいしいね」と各論で認める必要があるんです。たとえ「それ、買ってきたお惣菜やねんけど」って返されてもひるまないで、「こんなお惣菜を見つけられる君が好き」まで言ってくださいね』。

笑いが起きつつも、なるほど!となる内容です。

それでは、身近でありつつ難しい夫婦関係について、さらに伺っていきましょう。
黒川伊保子stage2

夫婦間のギクシャクが起きるわけは? 脳科学から説明!

夫婦関係を平和に楽しく続けることは永遠のテーマではないでしょうか? 根本的に、脳の仕組み自体が男女で違うのでは?と思いがちですが『男女で脳の機能に差はありません』ときっぱり。

ただし、生殖機能の役割の違いにより、とっさの時に起動される脳の回路が異なるのだといいます。

『男性は“縦方向”の回路が働きやすく、女性は“横方向”、つまり左右の脳を連携させて広く周囲を察知する回路が働きます』。

この違いが、男女のすれ違いを生むのです。

男性は一点集中型で問題点を探します。
『だから、人の話を最後まで聞けないの。「で?結論?」「要するにこういうことでしょ」なんて、まとめたくなっちゃうの』。

一方、女性は共感を得ながら話すことで、自分の脳の中から答えを導き出します。『共感してもらいたいのに、いきなり問題点を指摘されてしまうから怒っちゃうんですよね』。

これは男性に思いやりがないからではありません。『男性は目の前の大切な人を、「1秒でも早く助けたい」って思っているんですよね』。

『世の男性に伝えたいのは、女性の話にまず共感してほしいということ。「そりゃ、がっかりしたよね。かわいそうに」と1.2倍共感すれば、「それほどでもないけど・・・」って丸く収まりますよ』。

ところが、夫婦関係も歳を経ると関係性が変化するとか。

『これも生殖ホルモンの関係です、40代くらいになると逆転してくるの。夫がおしゃべりになって、妻が聞く側。まあ、男性の長い話は大体うんちくですけどね』と会場を笑わせてくださいます。

『生殖期間が終わると、人はやっと人間として、人生を楽しめるんです。ここからは地球旅を遊び尽くす時間。夫も少し女性寄りになって、人の話が聞けるようになるの。おしゃべりにもなるけど、妻はうんうんって話を聞いてあげてください』。

夫婦の会話道のゴールは“他愛のない話”だと話される、黒川さん。
『「麻婆豆腐食べようと思って中華屋入ったらさぁ、いつもの癖でラーメン頼んじゃって、麻婆豆腐食べてないのね」「町はクリスマス一色だね」なんて意味がない会話でいい。これが脳にとてもいいんです』。

他愛のない会話は、右脳、左脳、小脳と、脳全体に信号をいきわたらせることになるので、脳を活性化するエクササイズなのだそうです。
黒川伊保子stage3

職場の人間関係にも“脳の法則”で

職場の人間関係にも脳の働きは影響します。

「心理的安全性」という言葉が注目されていますが、黒川さんはそこに“他愛のない会話”が深く関わるとお話されます。

『良いチームは安心して言葉を交わし合える環境がある、つまり、心理的安全性が確保されているんです。そうした環境は、お互いの脳が連動し、親近感が生まれ、発想力も上がります』。

まずは、上司側のポイントです。
『部下の第一声を否定せず受け止めましょう。たとえ使えない提案でも、「その着眼点いいね」などと肯定してから、「でもアイデア自体は、いまいちかな」と続けてください』。

人は第一声を否定される相手には、話をしなくなります。話をしなくなると、脳は、発想からやめてしまうそう。脳が“出力する必要がない”と判断して、発想や気づきの神経信号自体が流れなくなると黒川さんはおっしゃいます。

『だから、頭ごなしの上司は、チームの発想力を止めてしまうんです。うちのチームは使えないと言ってる上司、そもそも、その上司のコミュニケーション力に問題ありかも。上司は普段からしっかりコミュニケーションをとることが大切。気軽に話せる関係性が部下を育てます』。

では、逆に部下から上司へは?

『欠点を指摘されたときに、「すみません」ではなく、「ありがとうございます」と言ってみてください』と黒川さん。

「ありがとう」は二人の脳を変える魔法の言葉。『ありがとうと言われると、アドバイスや見守りと受け止められるでしょう? 「明日はもっと頑張ろう」と思えます』。

黒川さんはこれを、“ありがとう返し”と名づけています。

『嫌なことを言われても、自分の魂を傷つけてはいけません。“ありがとう”は自分の気持ちを守るコーティング術です』。

さらに、会話を使った“場の切り替え”も有効だとか。
朝の「おはようございます」に、他愛もない会話を加えるだけで、その後の数時間は心理的安全性が保たれやすいのだそうです。

そして忘れてはいけないのが表情。『人は顔の表情を見て、その感情を自分の中に起こします。目の前の人がニコッと笑うと、こちらも口角上がるでしょ? 仏頂面したら、それも相手に移ります。表情って移るんですよ。これは脳の中のミラーニューロンという細胞の仕事です。そして、表情と感情はとても密接なので、表情は感情を誘発します。つまり、表情越しに感情が連動するってこと』

『不満は不満な顔で言わない』と黒川さん。『不満顔は、相手の脳に不満の信号を起動するので、向こうも不満たらたらになっちゃう。私なんて夫に「この間言われたあれ、ひどいわ」って笑顔で言うんですが、夫はそれが一番怖いらしいです』と会場を笑わせてくださいました。

この仕組みは、職場でも家庭でも同じ。『朝、子どもを送る時に笑顔で「行ってらっしゃい」と言うだけで、午前中の授業を前向きに受けられるんです』

会った時の表情、他愛のない話、そして“ありがとう返し”―

この3つを身につければ、『人生は思い通りに動き始めます』。
最後に、『今日は3連休のあたたかい素敵な日に、私のためにありがとうございました。今日のヒントで、皆さんの日常がちょっと素敵になったら嬉しいです』と優しいメッセージをいただきました。
黒川さんの脳についての解説はとてもわかりやすく、脳の仕組みや働きを知るだけで、コミュニケーションが円滑になる…。新鮮な視点をいただけたひとときでした。明日から取り入れてみませんか?