OECDは「教育の目的は、個人のウェルビーイングと社会のウェルビーイングのふたつを実現することである」と定義しています。特に子どもが自分で決めた道に進むことは学生生活だけでなく、その後の人生に大きな影響を与えます。
親として子どもが希望する進学先へ進めるように、経済的にサポートしていきたいと思う人は多いでしょう。今回は、そのための教育資金準備について解説します。
子どもの教育費はいくら貯めるべき?目標設定の方法
子どもが希望する進路に進むためには、教育費をいくら準備したらよいでしょうか。大学4年間でかかる学費を紹介し、その金額を踏まえた目標設定の仕方を解説します。
最初に、文部科学省の調査データから国立大学と私立大学の、学校に納めるお金の平均額を紹介します。
大学生の教育費総額(参照:文部科学省「令和5年度 私立大学入学者に係る初年度学生納付金等平均額」、国立大学等の授業料その他の費用に関する省令より)
国立大学の学費は省令によって決められた標準額であり、自主的な金額を設定している大学もあります。また、公立大学は基本的に国立大学の標準額に準じた金額設定をしていますが、地元出身者と地元以外の出身者に差をつける大学があります。
また、自宅から出てアパートなどに下宿する場合、その費用も見ておかなければなりません。以下は、日本政策金融公庫の「令和3年度 教育費負担の実態調査結果」のデータです。
自宅外通学にかかる費用
年間仕送り額:958,000円
自宅外通学の初期費用:387,000円
自宅外通学の場合、授業料の同程度の仕送りが必要になります。
子どもの教育費の準備は早く始めるほど有利で、できれば誕生したらすぐにスタートしたいところです。しかし、生まれたばかりの子どもの将来の進路は、わかりません。
そこで、子どもがどんな進路を選んでもある程度対応できる金額として、まずは500万円を目標にしてみましょう。500万円を準備できると、子どもが私立理系の大学に進学しても学校に納めるお金の大部分をまかなえます。
ちなみに、18年かけて500万円を準備する場合の毎月の積立額は、利息を考慮しない単純計算で約23,000円です。
この金額は子どもひとりあたりなので、子どもの人数や家計状況によっては難しい場合も考えられます。その場合は毎月いくらなら教育費の準備に回せるかを考え、その金額から目標を立てましょう。
ただし、2024年10月からの新しい制度で児童手当を0歳から積み立てると、第2子までがもらえる総額は子どもひとりにつき234万円です。この金額は最低目標とするようにしましょう。
もし、教育費準備のスタートが遅れてしまった場合は、初年度納付金分(約150万円)は準備できるようにしましょう。
目標の教育資金を準備するためのポイント
子育て世代は子どもの教育やマイホーム取得など、一番お金のかかるライフステージです。限られた収入を上手くやりくりして、目標の教育資金を準備するためのポイントを開設します。
2024年10月からの制度改正により、児童手当は高校生年代(18歳到達後の最初の年度末)まで支給されるようになりました。支給額は3歳未満が月額15,000円、3歳から高校生までが10,000円です。第3子以降は30,000円に増額され、所得制限も撤廃されました。
この改正により18歳までの子どもひとりあたりの支給総額は約234万円(第2子までの場合)となります。支給された児童手当を教育資金として取り分けておけば、私立大学の学費の半分程度はまかなえます。進学先が国立大学なら、児童手当の積立分だけで学費をカバーできるわけです。
受け取った児童手当分は生活費に使ってしまわず、後述する方法で貯めていきましょう。
教育資金の準備は、子どもが小学生のうちに目標額の8割を準備しておくようにしましょう。たとえば、目標額を500万円とした場合、小学校卒業までに400万円の準備を目指します。
中学生以降は学習塾や部活動、習い事といった教育費が増え、公立に通っていても貯蓄に回せる金額が大幅に減るためです。実際、公立の中学生の学習塾費は月額平均2万円程度かかります。
具体的な計画としては小学校卒業までに400万円を準備するため、月々約28,000円の積み立てが必要となります。中学から高校にかけて残りの100万円を準備する場合の毎月の積立額は、約14,000円程度です。
つまり、小学校卒業までに400万円準備できれば、中学生以降は児童手当分に若干上乗せする程度を積み立てられれば目標を達成できます。
高校までの教育費は、毎月の収入からまかなうようにしましょう。高校までの教育費を貯金から捻出してしまうと、大学進学のための資金準備の計画が狂ってしまうおそれがあるからです。
国の高等学校等就学支援金制度により、公立高校の授業料は実質無償化されています。また、私立高校でも世帯の年収に応じて最大で年額396,000円の就学支援金が支給され、多くの家庭で教育費の負担が軽減されています。
このような支援制度を活用して毎月の収入から教育費の積立分を確保し、将来のための資金に手をつけないことが重要です。
教育資金準備というと、学資保険を思い浮かべる人も多いでしょう。しかし、長く続いた超低金利のために、学資保険を途中で解約するとほとんど元本割れし、満期まで続けても増える部分はわずかです。
効率よく教育資金を準備するなら、貯蓄と保険は分けるほうが合理的です。具体的には、教育資金は預貯金やNISAなどの金融商品で準備し、「もしも」のための保障は定期保険で確保するのです。
たとえば、35歳の男性が保険期間20年、保険金額500万円の定期保険に加入する場合、月々の保険料は1,000円程度と、比較的安価に必要な保障を確保できます。
保険は「万が一」の保障として割り切り、教育資金は別途計画的に準備していきましょう。
教育資金が不足する場合の補完的な選択肢として、奨学金や教育ローンがありますが、それぞれ慎重な検討が必要です。
奨学金は、日本学生支援機構(JASSO)の貸与型奨学金を利用する人が多いと考えられます。貸与型奨学金は子どもに返済義務があり、返済が3ヵ月以上遅れると、個人信用情報機関に延滞情報が登録されてしまいます。信用情報にこのような情報が登録されると将来的な住宅ローンのような借り入れにも影響を及ぼす可能性があります。奨学金は借り入れであると認識し、延滞をしないように注意しましょう。
教育ローンについては、日本政策金融公庫の「国の教育ローン」が比較的低金利で利用できますが、世帯年収などの要件があります。いずれの選択肢も、将来の返済負担を考慮し、必要最小限の利用にとどめましょう。
FPがおすすめする教育資金を貯める方法
教育資金は使う時期が決まっているため、あまりリスクのある方法での準備には適していません。預貯金での準備でも問題ありませんが、多少のリスクを取れる人におすすめの方法を紹介します。以下の方法を複数組み合わせたり、預貯金と組み合わせたりしてもよいでしょう。
https://www.mof.go.jp/jgbs/individual/kojinmuke/recruitment/
個人向け国債特に変動10年タイプは安全性の高い金融商品で、教育資金準備にもおすすめできます。変動10年タイプは半年ごとに金利が見直され、2024年12月募集分では年0.71%と、一般的な定期預金より高い利回りとなっています。
個人向け国債の最大の特徴は、国が元本と利子の支払いを保証している点です。また、購入から1年経過後は1万円単位で中途換金が可能で、元本割れの心配もありません。
定期的な積み立てはできませんが、毎月募集されているため、資金に余裕ができた際に追加購入ができます。元本保証かつ定期預金より高い利回りを求める人に適した商品といえるでしょう。
NISAは投資信託などの運用益が非課税となる制度で、特に子どもが小さく、10年以上の準備期間がある場合におすすめです。途中でお金が必要になったときでも、いつでも換金できます。
つみたて投資枠では年間120万円まで投資が可能で、ネット証券なら100円から積み立てが可能です。教育資金準備には、国内外の株式や債券に分散投資するバランスファンドが適しています。元本保証でなくても運用期間が長い場合、安定した運用成果を期待できるためです。
子どもの進学時期が近づいたら、大きく値上がりしている資産を売却して利益を確定していきましょう。
外貨建てMMFは米ドル建ての短期国債や社債などで運用される、比較的安全性の高い投資信託です。2024年12月時点の米ドル建てMMFの年利回りは4.0%程度となっており、円建ての預貯金より有利な運用が見込めます。また、積み立てができる証券会社もあります。
また、格付けの高い短期金融商品で運用されるため、外貨ベースでは元本割れのリスクはほとんどありません。ただし、為替レートの変動により円換算で元本割れする可能性があります。
教育資金準備ではトルコリラのような高金利でも為替変動リスクの高い通貨は避け、米ドル建てでの運用が望ましいでしょう。なお、外貨預金は預金保険の対象外ですが、外貨建てMMFは分別管理されるため、金融機関が破綻しても資産は保全されます。
まとめ:早くからの準備で子どもの夢をかなえましょう
子どもの教育資金準備は将来の選択肢を広げ、子どものウェルビーイングを支える重要な取り組みです。子どもが自分の興味や才能に従って進路を選べるよう、早期からの計画的な準備が大切です。
貯蓄と保険は分けて考え、個人向け国債やNISAなどを取り入れて着実に準備を進めることで、子どもの夢を経済面からサポートできるのです。
執筆:松田 聡子
明治大学法学部卒。ITエンジニア、国内生保法人営業を経て2009年よりFPとして独立。企業型確定拠出年金、FP受験講座講師、個人・法人への相談などに加え、2020年より金融ライターとして執筆を開始。保有資格はCFP®、DCアドバイザー、証券外務員二種。