使われなくなった路線バスをサウナに生まれ変わらせた「サバス」は、2022年にサービスを開始して以来、全国各地のイベントなどに登場してきました。
一見すると、「バス×サウナ」というユニークな発想から生まれたサービスですが、その背景には、コロナ禍で大きな打撃を受けたバス会社の現状と、「今あるものを別の形で生かせないか」という発想がありました。サバスを立ち上げた松原さんに、誕生のきっかけから開発の苦労、そしてこれから挑戦してみたいことまで、お話を伺いました。
コロナ禍で考えた「今あるものを生かす」という選択
――ローカルバスをサウナにしようと思ったきっかけを教えてください。
もともとは、路線バスを再活用する事業をやりたいと思ったのがきっかけです。
私が勤める兵庫県のバス会社では、コロナ禍の緊急事態宣言によって、従業員が自宅待機になりました。通勤や通学のバス需要も大きく減り、「バスは走っているのにお客様が乗っていない」という状態が続き、売上も激減しました。
この状況に危機感を覚え、「バス以外の事業を始めて、状況を打開しなければ」という話が社内で持ち上がりました。
ただ、まったく新しいことをゼロから始めるには大きなリスクが伴います。それよりも、今あるものを活用する方が実現の可能性が高まりますし、コストも抑えられます。
それならば、バス会社の資産である「バス」そのものを、別の形で有効活用できないだろうか。そこから、サバスの構想が始まりました。
――松原さんご自身が会社に提案されたのですね。
そうですね。そもそも私が所属していたのは会社の新規事業を考える部署だったので、普段から新しい事業について考えていました。
そこにコロナ禍で会社が危機的な状況に陥ったことが重なり、「今あるものを活用する」という軸で考える中で、たどり着いたのが「サウナバス」というアイディアです。
――それ以前にも、社員のアイディアから生まれた事業はあったのでしょうか。
農業や保育に関する事業があります。何十年も前に社員からの提案で事業化され、子会社として独立しているケースもあります。
ただ、これらはバスとは直接関係のない事業です。既存のバス事業やその資産を生かした新規事業という意味では、サウナバスが初めてでした。
一念発起で起業し、サービスを展開
――サバスは、バス会社の一事業としてスタートしたわけではないのでしょうか?
事業化するにあたり、自分で会社を立ち上げました。開業資金も自分で用意して、勤めている会社からは「出向」という形で許可をもらって始めたんです。
――松原さんは社長でいらっしゃるということですね!なぜ、社内の事業としてではなく、独立する形を選ばれたのですか?
当時、経済産業省に「社内起業家」を育成するための補助金があり、それを活用しました。
「サウナバス」というアイディアが出たところまでは良かったのですが、それをどう事業化するかが手探りで、試行錯誤していました。直属の上司と、社内の新規事業として進めるのか、別の方法を取るのかを話し合っているときに、上司がその制度を見つけてくれたんです。
補助制度について調べたり、話を聞きに行ったりするうちに、会社の中で進めるよりも、社内起業家として自分で立ち上げたほうが、スピード感をもってスムーズに進められるのではないかと考えるようになりました。
オフィス、レストラン、ホテル……。候補の中から「サウナ」を選んだ理由
――「バスをサウナにする」というアイディアにたどり着くまでには、他にも案があったのでしょうか。
いろいろありました。
コロナ禍だったので、最初に思いついたのは「バスをオフィスにする」という案です。
移動できるシェアオフィスのようなイメージですね。
当時はキャンピングカーやキッチンカーに注目が集まっていたことから、
バスをレストランにするという案もありました。
キッチンカーとは違い、バスなら車内にイートインスペースも設けられるのではないかと。
他にも、キャンピングカーをさらに豪華にしたような「宿泊できるバス」など、さまざまなアイディアをリストアップしました。
――その中で、なぜサウナだったのでしょう。
国内外のバス改造事例を調べていく中で、サウナ大国のフィンランドには、バスをサウナに改造した事例があることを知りました。
レストランやホテル、オフィスも便利だとは思ったのですが、個人的には、少し面白みに欠けるように感じていたんです。
自分自身がリスクを負ってビジネスを始めるのであれば、自分が「おもしろい」と思えることをやりたい。せっかくなら、話題になるようなものを作りたいと思いました。
そう考えたときに、「サウナがいいな」と思ったんです。
バス会社自身がバスを別の用途に活用する事例は、当時は珍しかったんです。これが話題になって成功すれば、全国に広げていける可能性もあると感じたのです。
もちろん、本当に売上げにつながるのかという不安はありました。
サウナを作るだけではダメ。「走れるサウナバス」にする難しさ
――開発するうえで、苦労したことはありますか?
日本では前例がほとんどなかったので、手探りで作り方を考えていきました。
サバスのサービスポイントは、サウナを目的地まで運べることです。そのためには当然、バスとして道路を走ることができなければなりません。車検を通す必要がありますし、バスは定期的に点検しなければならない箇所もたくさんあります。
単純に、内装をきれいなサウナにするだけならできるかもしれませんが、点検や整備ができなければ、バスとして維持できません。
そこで、大工さんやバスの整備担当者と実際に現場を見ながら、「ここは点検できるようにしておこう」「ここには熱が伝わらないようにしなければ」などと、一つひとつ話し合いながら作っていきました。
エンジンや重要な機材がある場所に熱が伝わらない構造にしたり、点検口を開けやすくしたり。すのこや壁も、何層にも重ねる必要がありました。
さらに、同じように見えるバスでも、1台1台に個体差があります。その車両に合わせて作りこまなければならないので、大工さんにとっても難しい仕事だったと思います。
完成するまでは「全く引き合いがなかった」
――今ではさまざまなイベントで見かけるサバスですが、最初から反響があったのでしょうか。
いえ、サバスを作り始めた段階ですでに営業はしていたのですが、最初は全く引き合いがありませんでした。やはり、実物がないとイメージしにくかったのだと思います。
ところが、実際にサウナバスが完成すると、興味を持ってくださる方が少しずつ出てきたんです。
――現在はどのように利用できるのでしょうか。
今はレンタルという形で貸し出しています。
「いつ、どこで使いたいか」を公式Webサイトからお問い合わせいただき、そこから費用を算出したり、利用にあたってのルールを説明したりして、レンタルしていただく流れです。
現在は兵庫に1台、神奈川に1台、静岡に2台、合計4台のサバスがあります。
サバスを設置できる場所であれば全国どこでも貸し出すことができ、基本的には最も近い拠点から車両を運びます。関東の車両をフェリーで北海道まで運んだこともありますし、関西の車両が熊本など九州まで行くこともあります。
水風呂として使える組み立て式のプールや、水風呂の後に外気浴をして「ととのう」ための椅子なども用意しています。サバスをレンタルしていただければ、サウナ、水風呂、外気浴までひと通り楽しめるようになっているんですよ。
26都道府県へ。「見たことのない路線バス」が人を呼ぶ
――実際にサバスを体験した方からはどんな反応がありますか?
驚かれることが多いですね。
路線バス自体は誰にとっても身近なものですが、そのバスが本当にサウナになっていることにびっくりされたり、「バスって、こんなに広かったっけ?」と新鮮な驚きを感じられたり。
イベント会場に置いていると、お子さんやバス好きの方など、サウナファンでない方の目にも留まりやすいようです。
路線バスは基本的に走るエリアが決まっています。例えば「神姫バス」なら、普段走っているのは姫路や神戸周辺です。
それが九州や北海道を走っている。現地の方からすれば「見たことのないバスが走っている」というだけでも新鮮に映るんですね。
中にはカメラを持って待ち構えてくださっているバスファンの方もいます。
――これまで、どのぐらい利用されているのでしょうか。
2022年にサービスを始めてから、これまでに70件ほど、人数にすると5,000~6,000人の方に利用していただきました。
47都道府県のうち、これまで26都道府県にサバスをお届けしています。ただ、利用にあたって保健所の許可が必要なので、条件が厳しい地域では難しいケースもあります。
「おもしろい」の先へ。バスで社会課題を解決したい
――今後、チャレンジしてみたいことはありますか?
正直なところ、サバスがここまで反響をいただくとは思っていなかったので、驚きました。1台目のサバスは、「バスを活用する1つのモデルになれば」という思いで作ったものです。その後、託児に使えるバスも作りました。
ただ、自分自身ですべての事業を運営できるほどのキャパシティはないので、運営を別の会社にお願いしているものもあります。
サバスは、どちらかというとエンターテインメント性の強いサービスですが、今後はバスという資産を使って社会課題の解決につながるような事業にも取り組んでいきたいと思っています。災害時にバスを活用できる仕組みなども考えていきたいですね。
仕事をきっかけに、サウナが自分自身の楽しみに
――最後に、松原さんご自身が実践している「ウェルビーイングなこと」を教えてください。
サバスを始めたことをきっかけに、自分自身もサウナが楽しみになりました。
サバスが地方へ行くときには、私もスタッフとして同行することがあります。そのときに、その地域にあるサウナや温浴施設へ行くんです。
仕事でサウナと関わることになりましたが、リラックスできる趣味としても楽しんでいて、私にとってサウナは欠かせない存在となりました。
◆
「サバス」公式Webサイト
◆直近のイベント
2026年8月22日(土)~30(日)
【サバスがタングラムにやって来る】サウナ×バス×高原でととのう蒸車体験
2026年7月4日(土)~8月30日(日)
「サバス4号車」園内で期間限定 蒸車できます!
取材を終えて
完成したサバスだけを見れば、思わず誰かに話したくなるようなユニークなアイディアですが、そのアイディアが突拍子もない思いつきから生まれたわけではないことがわかりました。
いくつもの案の中からサウナを選んだ理由は、「自分でリスクを負って始めるなら、自分がおもしろいと思えることをやりたい」という、とてもシンプルなもの。自ら資金を用意して会社を立ち上げ、前例のないものを作るということは、簡単なことではありません。
サバスから始まったバスの新しい可能性は、今後、災害支援をはじめとした社会課題の解決へも広がっていくかもしれません。
各地のイベントにサバスが登場しますので、お近くで開催される際にはぜひ行ってみてください!
番組「ウェルチル 私と誰かに、ちょっといいこと」
関西テレビ放送
毎週金曜よる10時52分放送(関西ローカル)
次回もお楽しみに。