「列島ウェルチル」では、日本全国のウェルビーイングな取り組みを紹介しています。第2回目である今回紹介するのは、株式会社キッチハイクが提供する「保育園留学」というサービス。家族で地域に1~2週間滞在し、こどもは現地の保育園に通い、親はリモートワークで仕事もできる、自然との触れ合いを体験できる留学プログラムです。同社の広報担当の長谷部由梨さんに、保育園留学の内容や、保育園留学が求められる理由についてお話を伺いました。
ーー保育園留学とはなんですか?
保育園留学は「1~2週間、家族で地域に滞在する子ども主役の暮らし体験」です。自然豊かな環境でおもいきり遊ぶなどの普段とは異なる体験を子どもにしてもらうことが主な目的のため、一般的なワーケーションとは異なります。サービスに含まれているのは、地域の保育園に滞在する一時保育費用、家族で滞在する一軒家やホテルの滞在費や水光熱費、Wi-Fi環境などです。地域によってはコワーキングスペースもセットになっています。
ーーどのようなスケジュールで過ごすのでしょうか?
1週間か2週間から滞在期間が選べて、どちらも日曜日チェックインの土曜日チェックアウトになります。初日の日曜日は買い出しや周辺の散策などをして、次の日から登園が始まります。登園は平日の月曜日から金曜日です。子どもを預けてから親はリモートワークをして、夕方4〜5時にお迎えに行きます。その後はお買い物をして夕飯の支度をして……と、別の地域でいつもと同じ生活を送るイメージですね。
ーー保育園留学が生まれた背景・目的を教えてください。
約3年前、弊社代表の山本は、横浜の園庭のない保育園に2歳のお子さんを預けていたそうです。そんなときに、仕事の関係で繋がりのあった北海道厚沢部町の保育園の「認定こども園はぜる」に出会い、園庭の広さに衝撃を受けます。「ここに娘を通わせてあげたい!!」と思った山本は、厚沢部町の「認定こども園はぜる」に出向き、一時保育を2週間ほど利用しました。
その一方で、厚沢部町は子育て世代が流出していることに困っていました。「素晴らしい保育園を作れば、子育て世代が戻ってくれるかもしれない」そんな期待も込めて作られたのが山本が一時保育で利用した「認定こども園はぜる」だったのです。ただ、町の思いとは裏腹に、オープンしてから2年が経っても、保育園を目的に移住してくる人はゼロ。滞在中、厚沢部町職員の担当者の方、保育園の先生方と話をする中で生まれたのが「保育園留学」でした。
子育て世代は、満足のいく子育てもしたいし仕事も頑張りたい。過疎地域からすると、町の存続のためには子育て世代や関係人口を増やすことが必要。両者の目的が合致し保育園留学が形になったのです。
ーー保育園留学が始まって、受け入れ地域にはどのような影響がありますか?
経済的な効果では、1週間程度の滞在で1家族につき、およそ20から30万円を地域で消費いただいております。一時保育の費用もありますし、宿代、移動費レンタカー代、その地域のお店に行くことも含めてですね。
また、サービスを開始してから約3年で1,500家族、約5,000名の方に保育園留学を利用いただいております。すでに4組の家族が移住した地域もあります。
関係人口の観点では、保育園の年中・年長になるとお友だちができますよね。保育園留学から帰ってもお手紙を交換したり、地域のお土産を送り合う仲になったり関係性が続くんです。保育園留学で訪れた地域に定期的に遊びに行き、継続的に関係性を持つようになるケースもあります。
ーー小学生留学についても教えてください。
保育園留学を体験したご家族の「卒園して保育園留学を体験できなくなるのが悲しい」との声から始まりました。保育園留学ほど受け入れ地域は多くありませんが、公立の小学校、学童、地域で開催している子ども預かりプログラムなどの受け入れ体制があります。
ーー人気の留学先、その地域ならではの魅力を教えてください。
北海道の厚沢部町は、広い園庭でのびのび遊ばせたいとの要望に応えられ、受け入れ可能な組数も多いため、人気があります。他に人気なのは、岐阜県美濃の保育園です。保育園がお寺の中にあり風情があるうえ、車が必要ないので生活しやすいんです。歴史を感じる町並みの中で過ごせるため、大人の満足度も高いですね。また、遊具のない園庭で泥んこ遊びができる保育園のある、熊本県の天草への留学も人気です。周辺には純度の高い海もあり、初夏にはウミガメの産卵やイルカを間近で見ることができるのも魅力です。
ーーどのような体験が人気ですか?
広い園庭でのびのび走り回ることや泥んこ遊び、寒い地域での雪遊び、動物との触れ合い、野菜の収穫体験など、都心部ではできない体験が人気ですね。木育や食育に力を入れている園や、1箇所ですがインターナショナルスクールなど園独自のカリキュラムが体験できる留学先も人気があります。
ーー保育園留学に行くと、子どもや家族にどのような変化がありますか?
子どもは、初めてだらけの環境で最初は居場所がなく戸惑うのですが、すぐに順応して慣れていきます。その中で社会性を身につけたり、どの人に頼ればいいのかを判断したり、地元の子がアクティブに遊んでいる姿を見て刺激を受けたりして、自分から学ぶ姿勢が身につくようです。遠くの地域に友だちができるという貴重な経験が宝物になる子も多いです。
また、「教育方針を考え直した」「子どもとの暮らし方を考え直した」との意見をもらうことも多いですね。いつもの生活と違い、親の心に余裕があることも手伝って、子どもの変化や成長に気付きやすくなるんです。
ーーぜひ参加してみたいのですが、子どもが引っ込み思案な場合はどうすればいいですか?
保育園留学のプランナーにご相談をいただく多くの親御さんから「うちの子は人見知りで」とご相談をいただきます。お子様の特性をお伺いしながら、少人数の園をご紹介させていただいたりもしますが、最終的にはほとんどのお子様が順応され、楽しんでくれますよ。事前に子どもとホームページを見て情報を共有したり、留学先を一緒に選んだりすることで、ワクワクした気持ちで臨めるかもしれませんね。
ーーどのような方が利用していますか?
ご利用いただいく約8割のご家族が首都圏など都心部にお住まいです。今通っている保育園に不満を感じているというよりも、「のびのびした環境で思いきり遊ばせてあげたい」「子どもに新しい体験をさせてあげたい」「地域での暮らし体験をしてみたい」という方が多いです。
我が家は子どもが2歳のときに保育園留学をしたのですが、イヤイヤ期も重なり泣き叫んで登園をしぶるシーンもありました。そのような場合、子どもにとって良いことなのか悩む瞬間もあるのですが、「親子共に新しいチャレンジができた」「新しい世界を知れた」と前向きに考えられる家族に保育園留学は向いていると思います。
ーーウェルビーイングについてどうお考えですか。
キッチハイクは「人生を謳歌する社会へ」という企業理念を掲げています。これは「自由気ままに好き勝手に生きる」という意味ではありません。「次の社会を生きる子どもたちの未来のために何ができるのか」を考えて実践して続けていくことが、最終的に自分の心と体の良い状態につながると考えています。「理想に描いた子育てをしながら、仕事も頑張る」という一見矛盾した親の気持ちを叶えることが、より良い未来を作ると思います。
ーー最後に、今後の展望を教えてください。
子どもにとっても、親にとっても、日本の過疎地域にとっても、都市部と地域を繋ぐことが希望になると思っています。未就学児の子どもを育てる家庭にとって、保育園留学が文化になるような世界を目指したいと思います。
子育ても仕事も充実させて、より良い未来を作ろう
現代の子育てや働き方のあり方に新しい視点を提供し、より良い未来に繋げる「保育園留学」。話を聞いているだけで、体験してみたくてワクワクしてきます。日常の環境から少しだけ離れて、親子ともに心と体のウェルビーイングを高めてみませんか。