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音で楽しむ新しいレシピ「音で見るレシピ サウンドフルレシピ」とは?

料理をするとき、私たちは無意識のうちに「色」や「見た目」で火の通り具合を判断しています。しかし、視覚に頼らずとも、おいしく仕上げる方法があるとしたら?味の素が新たに開発した「音で見るレシピ サウンドフルレシピ」は、そんな視点から生まれました。視覚障がい者の方々のために最適化されたレシピサイトですが、実は目が見える人にとっても新たな発見が詰まっています。今回は、味の素株式会社のコミュニケーションデザイン部・赤坂由美子さんに取り組みの詳細についてお話を伺いました。

"音" で料理の変化を感じる。視覚に頼らないレシピ体験

ーー「音で見るレシピ サウンドフルレシピ」とはどのような取り組みでしょうか

一般的なレシピには、「きつね色になったら」「焦げ目がついたら」といった視覚的な表現が多く含まれています。しかし、視覚障がい者の方々にとって、これらの表現は理解が難しく、大きな壁となることがあります。「サウンドフルレシピ」では、そうした視覚情報を「音」や「感触」に置き換えることで、誰もが調理の変化を把握できるように工夫しています。
例えば、天ぷらを揚げる際には、「油の泡が細かくなり、シュワシュワと軽やかな音に変わったら揚げどき」というように、音を手がかりに適切なタイミングを判断できるようになっています。

"読む" のではなく "聴く"。音声読み上げに最適化されたレシピサイト

ーー一般的なレシピサイトとどこが違うのですか
視覚障がい者の方々は、スマートフォンやPCの音声読み上げ機能を使ってWebサイトを閲覧します。しかし、従来のレシピサイトは目が見える人向けに設計されているため、情報が散在し、目的のレシピにたどり着くまでに時間がかかることも。「サウンドフルレシピ」では、音声読み上げを前提としたUI/UXを採用し、必要な情報に最短でアクセスできるよう工夫されています。

無駄な装飾や画像を排除し、音声での理解を優先しています。具体的には「g(グラム)」や「°C(度)」など、読み間違えが発生しやすい表記を変換しています。料理の手順をシンプルに整理し、迷わず調理できるよう配慮しました。こうした工夫により、視覚障がい者だけでなく、音声案内を活用する高齢者や料理初心者にも優しい設計になっています。

"音のプロ" みきさんのコラムで、さらに深く料理を楽しむ

ーー配信されている音声コラムについて教えてください

「サウンドフルレシピ」では、特別な音声コラムも配信しています。料理好きのみきさんが、長年の経験から培った「音を活用した調理のコツ」を紹介しています。みきさんは全盲の方ですが、長年料理を続ける中で、音を頼りに調理のタイミングを判断する技術を磨かれました。
例えば、天ぷらを揚げるとき。「最初は大きな泡とパチパチという音がしますが、揚がる頃には泡が細かくなり、シュワシュワと軽やかな音に変わるんです」といったように、音に注目することで適切な調理のタイミングを把握する方法を伝えています。
音だけで料理の状態を把握するという視点は、目が見える人にとっても新鮮な発見となるでしょう。普段は視覚に頼りがちですが、音に意識を向けることで、より繊細な調理が可能になるかもしれません。

料理大好きな全盲のみきさんによる特別サウンドコラムも

「誰もが楽しめる料理」のために

ーープロジェクトの振り返りと今後の展開について教えてください

味の素では、これまで12,000件以上のレシピを公開してきました。しかし、その多くが視覚情報に依存した構成になっており、視覚障がい者の方々にとってアクセスしづらいものであることが分かりました。
そこで、視覚障がい者の方々との対話を重ねる中で、「音を頼りに料理をする」という視点が生まれ、プロトタイプ版として30のレシピを変換。「誰にとっても使いやすいレシピ」の実現を目指して開発が進められました。
今後は、さらに多くのレシピを最適化し、音声コラムの拡充を行う予定です。視覚に頼らずとも、誰もが料理を楽しめる環境を整えていきたいと考えています。

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「音で見るレシピ サウンドフルレシピ」は、単なる視覚障がい者向けの取り組みにとどまらず、すべての人が料理を通じて豊かな時間を過ごせるようにするプロジェクトです。「音」に意識を向けることで、料理の楽しみ方がより深まり、五感を使った新たな調理体験が生まれます。
食は、日々の生活の中で私たちの心と体を満たす大切な要素です。視覚だけに頼るのではなく、音や感触を通じて調理を楽しむことで、より豊かな食というウェルビーイングな時間が実現できるかもしれません。このプロジェクトが、多くの人にとって料理の新たな可能性を開くきっかけとなることを期待したいですね。