東京・蔵前にある「透明書店」は、その名の通り透明性を大切にした新しいコンセプトの書店です。「フリー株式会社(以下、freee)」が運営する透明書店は、単に本を販売するだけの場所ではなく、スモールビジネスの支援や24時間無人営業など、従来の書店ではあまり見られない取り組みを行っています。 今回、お話を伺ったのは、透明書店の代表を務める黒田愛美さんです。前編では、透明書店が誕生した背景や書店運営の裏側に迫ります。
“ありのまま”をオープンに、透明性を重視した“明け透け”な書店
——蔵前に透明書店を開業することになった経緯をお聞かせください。
freeeでは、「スモールビジネスを、世界の主役に。」をミッションに掲げています。蔵前は「東京のブルックリン」 とも呼ばれ、個人経営の店舗や企業が多く集まるエリアです。街を歩くと、住宅街のような落ち着いた雰囲気の中に個性的なお店が点在していることが分かります。「ザ・商店街」のようにお店が連なっているわけではありませんが、何気なく街を歩いていると「ふと気づくとお店を発見する」体験ができる街です。
個人経営の店舗や企業が多く集まる蔵前は、freeeのミッションとも一致しています。エリアの特性に加え、広さや家賃などさまざまな条件に見合う物件を見つけられたため、蔵前での開業を決めました。
——freeeはクラウド会計ソフト「freee会計」をはじめとする「SaaS型クラウドサービス」の運営会社として知られています。なぜ、書店経営を始めたのですか?
freeeが提供しているのは「クラウドサービス」です。このため、通常は在庫を持たないビジネスを展開しています。しかし、freeeのユーザーの中には、小売業をはじめ、在庫を持つビジネスを営む方もいらっしゃいます。そこで、そうした方々の気持ちをより深く理解するべく、freeeの社員が在庫を持つスモールビジネスに挑戦することとなりました。共同創業者であるフリー株式会社ブランドプロデューサーの岩見俊介さんと文筆家の岡田悠さんが本好きだったことも、書店を始めるきっかけの一つになりました。
——「透明書店」の由来を教えてください。
透明書店の「透明」は、透明性を意味しています。「ありのままの情報をオープンにしていく」のコンセプトから、「透明書店」の名が生まれました。透明書店では、売上や業務日報をSNSや公式note『freeeの透明書店 - 明け透けマガジン 』で、すべて公開しています。店舗のロゴは、「透明でクリアなイメージ」からクラゲをモチーフとしています。
——開業当初はビジネス書を中心に選書されていたとのことですが、現在は文芸書も増やしていると伺いました。理由を教えてください。
透明書店の目的は、スモールビジネスに関心のある方や、これからビジネスを始めようとする方に新たな気づきや刺激を提供することです。開業当初は、さまざまな業種に関する本を揃え、業種ごとに棚を構成していました。現在は選書を見直し、文芸書を増やしています。
もともとは、実用書や会計に関する書籍も多く取り揃えていました。しかし、透明書店には蔵前という土地柄もあり、街歩きやカフェ巡りを楽しむお客様が訪れます。そうした方々には、ビジネス書よりも文芸書のほうが手に取っていただきやすい傾向があることが分かってきました。お客様のニーズに合わせて、棚のラインナップを柔軟に変更してきました。
AIマスコットや無人営業など、従来の書店の枠を超えた取り組みを行う
——透明書店ならではのサービスや体験は何ですか?
「くらげ副店長」です。ChatGPTのAPIを活用したキャラクターで、開業当初から注目されています。くらげ副店長は在庫情報やおすすめの本を教えてくれます。
年中無休・24時間営業であることも強みです。無人営業の時間帯も設けています。QRコードで入店するタイプの無人店舗もありますが、透明書店では、そのまま入店が可能です。会計は、セルフレジでお願いしています。
もともとは営業時間を決めて、有人営業のみで運営していました。試験的に営業時間外に無人で営業してみたところ、思いのほか本が売れることが分かりました。懸念していた盗難被害も少 なく、良い取り組みだと実感しています。お客様からも、「夜の静かな空間で、自分と向き合う時間を過ごせるのが良い」といった感想をいただいています。
——シェア本棚の取り組みについてお聞かせください。
「スモールビジネスを支援する」というコンセプトのもと、店内奥に「24時間本や雑貨を販売できるシェア本棚」を設置しています。本が1冊だけでも置いてあれば、雑貨などを販売することも可能です。シェア本棚に出店していた棚主の中には、独立して書店を開業した人 もいますしや透明書店の常連さんの中で京都でシェア本棚サービスを始めた人もがいます。透明書店のサービスを通じて、自然に独立を支援できる仕組みを作れていることをうれしく思っています。
後編では、ウェルビーイングの視点から見る書店の役割や透明書店の今後についてお届けします。
<後編>はこちら!
透明書店
所在地:東京都台東区寿3-13-14 1F
営業時間:24時間
有人/月木金土日12:00〜19:00※イベント開催時は13:30〜17:00
無人/月木金土日19:00〜翌12:00、火水終日
年中無休
HP:https://tomei-boookstore.square.site/