「透明書店」は、フリー株式会社(以下、freee)が運営する書店です。24時間営業や深夜の無人営業、AIを活用した「くらげ副店長」など、従来の枠にとらわれないサービスを展開しています。「スモールビジネスを支援する」というコンセプトのもと、シェア本棚を活用した個人の独立支援や新たなビジネスの創出にも貢献しています。後編では、前編に引き続き代表の黒田愛美さんにご登場いただき、ウェルビーイングの視点から見た書店の役割や、今後の展望についてうかがいました。
奥行きを意識した内装、“深海”のような空間で静かに本と過ごせる
——店舗デザインや内装におけるこだわりポイントはありますか?
透明書店では「透明性」をコンセプトに掲げているため、不透明さの反対となる「親しみやすさ」や「奥行き」を意識した空間づくりをしています。店舗内は縦に長く、逆L字のような形状なので、お店の奥まで自然と進んで行けるようなつくりです。入口がガラス張りなので、外から店内がよく見える設計になっています。可動式の棚を設けるなど空間に変化を持たせる工夫も施しています。お客様からは、「深海みたいなお店だね」と言われたことがあります。お店の構造や雰囲気が重なって、静かで本のある空間をゆったりと楽しめるような空気が自然と生まれているのだと思います。
——透明書店の認知度向上に向けた取り組みについてお聞かせください。
刊行記念イベントや、毎月第2・第4金曜日に開催している「俳句や短歌の会」、その他単発のイベントなど、月に数回、イベントを実施しています。定期的に開催していたイベントの1つが、「素敵な本屋のつづけ方」です。このイベントは書店員を招き、書店の個性や強みの作り方について話を伺うトークイベントです。書店の運営経験がないfreeeの社員にとって、書店経営について学ぶまたとない機会となっています。
透明書店は、新刊のみを取り扱うシンプルな本屋としてスタートしました。しかし、あいにく新刊の販売だけでは十分な利益の確保が難しい現状です。試行錯誤を重ねながら、イベントの開催や雑貨の販売、飲食の提供、古本販売・古本店頭買取など、事業の幅を広げてきました。
本がある空間で過ごすことが、ウェルビーイングの第一歩
——ウェルビーイングの視点で、心身を健康に過ごすために書店はどのような役割を果たすと思いますか?
透明書店に来てくださるお客様は、自ら積極的に情報を得ようとする人が多い印象です。普段、パソコンやスマートフォンなどに触れていると、多くの情報に振り回されがちです。「書店」は、周囲の情報に振り回されることなく、落ち着いた環境の中で内面に目を向ける時間が過ごせる場所なのだと思います。
シェア本棚の利用者には、独立を目的とせず、「純粋に透明書店が好きなので、“推し活”の一環として」登録している方もいらっしゃいます。そのような方々の存在は、本当にありがたいことです。資本主義とは異なる価値観 も大切する側面もあり、そこに“本屋”という場所が必要とされている理由があるのではないかと感じています。
本との出会いは、人生に小さな変化をもたらすことがあります。そのようなきっかけを生み出す場として、書店は大きな役割を果たしているのではないでしょうか。
——黒田様がおすすめする「ウェルビーイングな1冊」を教えてください。
『わたしたちのウェルビーイングをつくりあうために』(渡邊淳司、ドミニク・チェン監修・編著 ビー・エヌ・エヌ)です。私自身、ウェルビーイングに興味があって過去に企画を立てたりしていたこともあり、今回、ウェルチルの取材を受けることになったのもご縁だと感じました。
書店経営で培ったノウハウや経験を、独立したい人たちへ“明け透け”に
——今後の展開についてお聞かせください。
透明書店で培ったノウハウや経験は、独立系書店を立ち上げたい人たちの役に立つのではないかと考えています。独立系書店はそれぞれが自分たちのやり方で、時には孤独に、忙しく日々の営業を続けているという一面があります。我々もそうした書店の知恵や経験から学ばせてもらいつつ、自分たちの試行錯誤も「明け透け」に共有して広めていきます。透明書店としては、オリジナルグッズやオリジナルドリンクを開発するなど、店舗の立地を生かした新しい取り組みにも力を入れていく予定です。
——ウェルチルの読者の方へメッセージをお願いします。
東京や蔵前の近くに遊びに来たときは、ぜひお立ち寄りください。透明書店は24時間営業なので、深夜にどこかに行きたくなったときや、朝早く目が覚めて散歩したいときなど、いつでも立ち寄っていただけます。有人営業時間では 「本に合うビール」もご用意しています。本を読みながらビールを楽しむ過ごし方もおすすめです。皆さまのご来店をお待ちしています。
前編では、透明書店が開業するまでの経緯や店舗の取り組みについてお聞きしています。
<前編>はこちら!
■店舗DATA
透明書店
所在地:東京都台東区寿3-13-14 1F
営業時間:24時間
有人/月木金土日12:00〜19:00※イベント開催時は13:30〜17:00
無人/月木金土日19:00〜翌12:00、火水終日
年中無休
HP:
https://tomei-boookstore.square.site/