前編に続きヤッホーブルーイングのユニークな取り組みやビールに対する熱い思いを深掘りしていきます。後編はファンとの絆を深めるイベントの裏側や、ビールがもたらす幸せについてお話を伺いました。
ファンとのつながりが生んだ「ビールで人と人をつなぐ」場づくり
――ビール会社がファンイベントを行うのは意外ですが、どのような意図で始めたのでしょうか?
渡部:
私たちはビールを製造販売するだけではなく、「ビールで人々の生活を豊かにしたい」という視点で活動しています。振り返ると2004年に地ビールブームが去り売り上げが低迷していた時期がありました。そんな中当時の社長がネット通販に本腰を入れ、全国のファンの方々とつながりを持つことができたんです。
当時はSNSもなくメーカーがお客さんの声を直接聞くことはほとんどありませんでした。ところがインターネットを通じてビールを販売すると、お客さんからメールで直接反応が返ってくるようになったんです。メーカーが直接お客さんとやり取りできること自体が革命的でした。
ネット通販で支えてくれたファンの方々に直接会って感謝を伝えたいという思いが強まり、2010年に恵比寿で40人を集めたイベントを開催しました。それが今のファンイベントの始まりです。初めてファンの皆さんと直接お会いしてその熱い思いを感じたとき、「これはずっと続けていかなければならない」と強く決意しました。
そこから毎年少しずつ規模を拡大し、2015年には軽井沢で1,000人、2018年には東京で6,000人規模のイベントを開催するまでに成長しました。今年の5月にも1,000人規模のイベントを開催しています。
――ファンとのつながりがとても重要なんですね。
渡部:
はい。私たちの会社が存続できているのはファンの皆さんのおかげです。ビールを通じてファンの方と繋がりイベントなどを通して直接お話を伺うことが、企業の成長に欠かせないと考えています。ビールはただの飲み物ではなく人と人とをつなぐものです。ですから、私たちはビールを通じて楽しさやエンターテインメントも提供していきたいと考えています。
――「折れたバットをビールにする」など、ユニークなイベントも話題になっていますね。
渡部:
そうですね。これは北海道の球場内にある醸造所で働くスタッフが思いついたアイデアです。折れて捨てることになるバットをアップサイクルしてビールの材料にする、という発想から始まりました。社会貢献としての活動でもありますがただのお堅い活動にはしたくありませんでした。ユーモアやエンタメ要素を加えて、「面白いけど実は社会に役立つ」という形を大切にしています。
――ユーモアと社会貢献が両立しているところがすごく魅力的です。
渡部:
ありがとうございます。こうしたユニークな取り組みも日々のスタッフの発想と熱意から生まれています。新球場でファンの皆さんを招いて、お披露目会や試飲会を行ったりもしました。折れたバットを加工するだけなら箸などへ加工する方法もありますが、私たちならではの発想でビールに新しい価値を加えることを目指しています。
――他にも社員の方の働き方もユニークですよね。Tシャツを着ていたりニックネームで呼び合ったりしているそうですね。他社にはないエンタメ要素だと感じました。
渡部:
社員はヤッホーブルーイングのビールを愛しこのブランドを広めたいという思いで活動しているので、外に行くときは必ずTシャツを着ていますね。ニックネームは社員同士が役職や年齢、性別にとらわれずに自由に話せるようにみんながニックネームで呼び合う仕組みを取り入れています。おかげでスタッフ同士の距離がぐっと近くなり、フラットな関係が生まれています。「個性」や「楽しさ」を尊重することが、社員同士の絆を強め、会社全体の雰囲気を明るくしていると思います。
――最後にビールがもたらす「幸せ」について、貴社の考えを教えてください。
渡部:
クラフトビールには料理との相性を楽しむという側面があり、例えばカレーには「インドの青鬼」、魚料理には「水曜日のネコ」など食事と合わせるビールの楽しみ方を提供することで新しい視点から幸せを提供できるのではと感じています。
アルコールとしての楽しみももちろんありますが、ビールは人と人をつなぐ役割も大きいですね。イベントに参加して一緒にビールを飲むと、初対面の人同士でも自然と交流が生まれ、「ビールを飲んでいるときだけはみんなが一つになれる」という特別な時間を共有できるんです。
ビールで人がつながり幸せな場が広がることが、いつかノーベル平和賞に繋がるんじゃないかと社長とも話しています。
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