出版社勤務を経てフードコーディネーターとしてのキャリアを積み、2016年にナッツ専門店「ナッツトーキョー」(※現在は終了)を立ち上げた音仲紗良さん。「がんばりすぎない食育」や「ゆるグルテンフリー」の啓蒙に尽力する音仲さんに、食の仕事を始めたきっかけや今後の展望についてお話を伺いました。
音仲紗良さんプロフィール
音仲さんは、フードコーディネーターとして活動する傍ら、ナッツ専門店やグルテンフリー飲食店を展開してきた起業家です。幼少期から食に対する関心を持ち、編集者としてキャリアをスタート。その後、食と美容の関係に興味を持ち、フードコーディネーターとして独立。無添加ナッツやグルテンフリー食品の専門店を立ち上げ、「ジャンク」と「ヘルシー」という両極端な価値観をつなぐ「架け橋」として活動の幅を広げています。現在は、ホテルや飲食店のメニュー監修やサウナ飯のプロデュース、多くの食品メーカーのPRディレクターとして、飲食業界のバックサポート業務を中心に行っています。
ビジュアルでワクワクするようなコンテンツを作りたい
――食の仕事に携わるきっかけや、これまでの経歴を教えていただけますか。
音仲:子供の頃から食べることが大好きで、グルメ情報誌や料理番組を見て育ちました。ただ、自分が料理を作る側というよりは、ビジュアルでワクワクするようなコンテンツを作る仕事がしたくて編集の世界に入りました。
実は食と同じくらい美容にも興味があって、子供の頃からいろんなダイエットや美容法を試していたんです。雑誌社に転職して美容の編集担当になったとき、コスメよりも「食べる美容」にフォーカスして、インナーケアの企画をどんどん出していました。
その後料理担当になったときにフードコーディネーターの仕事に触れ、料理はやはり見た目が大切だなと実感しました。どんなに素敵な企画でも写真がおいしそうじゃないと読み飛ばされちゃうんですよね。「自分でビジュアルも作れるようになりたい」と思って26歳で独立し、フードコーディネーターの専門学校に通いました。編集の仕事も続けていたので学生と個人事業主の「二足のわらじ」状態でした。
――2016年にナッツ専門店を立ち上げた経緯について教えてください。
音仲:PRのお仕事をいただいていた広尾のイタリアンのお店にシェフがいなくなって「店舗はあるけど中身が何もないから何かやってほしい」とオーナーに頼まれたんです。PRの立場から見ると、魅力的なコンテンツがなければ発信してもメディアには刺さらず、集客にも限界があることを痛感していました。
そこで「この場所でウケるものは何か」、広尾の特性をリサーチしつつ「これから流行りそうなものは何か」を模索しました。
そうした中で、私はナッツに着目しました。ちょうどその頃クルミが健康に良いと注目されはじめ、世界的なモデルたちがおやつにナッツを取り入れていることを知ったんです。しかし当時の日本では「ナッツは太る」「吹き出物ができる」といったネガティヴなイメージが強く、販売されているナッツもお父さん向けの乾き物としてまとめられた売り場ばかりでした。
広尾は、質の高いものにお金を払う人が多く、健康や食に対する意識が非常に高い街です。大使館もあり海外の方も多く住んでいるため、徒歩圏内の健康志向のコンビニでもナッツが売り出されはじめていました。
後で知ったのですが、その店舗は実はマーケティング第一号店だったようです。ナッツを知るために国内のナッツ製品を食べ比べました。そこで気づいたのは、おいしいナッツ製品は、食品表示を見ると添加物や砂糖が多すぎて、逆に体に良くないのではということです。
一方で健康志向のナッツは「まずい、もう一杯」という昔の青汁のCMのように、体に良いからと味に妥協する製品や、味気なくておいしくない製品ばかりでした。
どんなに健康によいものでもおいしくないとストレスだし、続かない。継続できないと健康にはなれない。だったら間食やおつまみ感覚でおいしく食べられる無添加のフレーバーナッツを作ろうと、ナッツ専門店を2016年にオープンすることにしました。
もちろん味付けなしの方が体には良いですが、私は「日本人の日常に定着させるところ」までいかないと意味がないと考えました。そこで、甘いものからしょっぱいものまで、季節限定ナッツなど多彩なフレーバーを開発したんです。トータルで30種以上はフレーバーを生み出しました。
お茶の味をまとわせたアールグレイフレーバーや、アップルパイフレーバーなど、これまでになかったフレーバーが話題を呼び、オープンと同時にTVや雑誌、ラジオや新聞などあらゆるメディアに取り上げられました。その結果、ナッツ料理研究家として年間で60以上のメディアに出演することができました。
今ではスーパーやコンビニでも手軽にナッツを購入できる時代になりましたね。でも当時ナッツ専門店を立ち上げると決めた時には「何だそれ」と批判の声も多かったんです。あの時の決断は間違っていなかったと、不安と闘っていた自分に声をかけてあげたいですね。
「ゆるグルテンフリー」と「がんばりすぎない食育」で健康的に
――その後、ゆるグルテンフリーに取り組むきっかけは何だったのでしょうか?
音仲:ナッツ専門店を立ち上げると決めてから「無添加とは?」「体に良いとは?」と本質的な健康について深掘りしていく過程で、マクロビオティックに出会いました。
マクロビオティックとは「マクロ=大きな」「ビオ=生命」「ティック=術、学」の3つの言葉から成り立っており、ざっくり言うと「日本の昔ながらの自然に即した食事法のこと」です。この考えをアメリカに啓蒙するにあたり、ギリシャ語を由来とした名称になったために海外発祥だと思われがちですが、実は日本生まれのものなのです。
ものすごく噛み砕いて言うと、玄米や味噌汁をベースに旬の食材を取り入れる和食で、なんて理にかなっているんだと身をもって体感できたんです。
それまでさまざまな流行の健康法や美容法を試してはつらくて続かなかったのに、まさに灯台下(もと)暗しでした。マクロビに出会って食の質を意識するようになり、ストレスなく自然と健康的な体になったと感じています。
バインミー専門店(ベトナムのサンドイッチ)を立ち上げる話があり、バインミーを研究するために食べ歩きをしたんですが、これまで感じたことがないような胃腸の不調を体感したんです。
バインミーは野菜のほかに肉や魚が入っており、一見栄養バランスが良さそうに思えます。しかしマーガリンやラードがたっぷりで、毎日食べるには体に負担がかかるというギャップを知りました。さらに、パンの主原料である小麦に含まれるグルテンが健康にさまざまな影響を与えることを身をもって知りました。
しかし一方で、バインミーは主食・野菜・主菜で構成されていて「片手で食べられる和弁当」のような効率のよい食事なのではと感じました。そこで、バインミーを「和食に再構築」することを考えました。
日本の発酵食品を取り入れることで、より健康的でなじみのある味となるように、パンも小麦の代わりに100%米粉のパンを使用することに決めました。
例えば、通常使われるヌクマム(ベトナムの魚醤)の代わりには秋田のしょっつるを採用し、シーズニング(砂糖の入った液体調味料)の代わりには丸大豆100%の豆たまりを使用。レバーパテは牛乳を米麹甘酒に置き換え、ラードはカシューナッツの油分で補いました。
ベトナム・日本ともに主食であるお米にフォーカスしたバインミーは親和性があるなとも思ったんです。
こうしてどこか馴染みのあるような、でもまったく新しいバインミーを完成させました。
ちょうど2020年というコロナ禍のタイミングでオープンさせたこともあって、国民の健康意識は高まり、発酵食品のニーズも高まっていました。
当時はグルテンフリーとローカーボ(低糖質)を混同する人も多く、一部の料理人やフーディからは「何がグルテンフリーだ」など否定的な意見も受けましたが、今では大手食品メーカーもグルテンフリーをどんどん採用しているので、意志を貫いて良かったなと思っています。
2016年にナッツ専門店の立ち上げに至るまでの道のりや、食への情熱について詳しく伺いました。
後編では、ゆるグルテンフリーの考え方や、具体的な実践法、さらに今後の展望についてお伺いします!
前編のまとめ
ナッツ専門店の立ち上げに至るまでの道のりや、食への情熱について詳しく伺いました。
後編では、ゆるグルテンフリーの考え方や、具体的な実践法、さらに今後の展望についてお伺いします!
音仲さんが商品顧問、アンバサダーを務める「クリエイト Theアーモンドミルクヨーグルト」はオーガニックスーパーをはじめ一部スーパーのほか、サイトからも購入できます!
https://www.roji-nhb.jp/products/5516924