コスプレイヤー向けの武器や衣装、舞台美術の大道具・小道具などを手がける株式会社匠工芸の副社長、桃井鈴さんに「私と誰かにちょっといいこと」をインタビューしました。
全国のコスプレイベントでは、自らデザインした衣装をまとい、ゲストコスプレイヤーとして活躍されている桃井さん。「匠工芸の動く看板」として会社の魅力を発信する一方で、高校ではキャリアデザインについて講演を行うなど、その活動の幅はものづくりだけにとどまりません。
公務員から「武器屋」への転職という異色のキャリアや、好きなことを仕事にするまでの歩み、今後の展望などについてお伺いしました。
公務員から「武器屋」の副社長へ
ーーこれまでのキャリアについて教えてください。
現在はコスプレ衣装や大道具・小道具などを制作する、株式会社匠工芸で副社長を務めています。ここに入社する前は、加古川市の市役所で公務員として働いていました。
学生の頃は洋服を作ることが大好きで、「いつか服作りに関わる仕事がしたい」という気持ちがずっとありました。公務員を辞めて、その夢を叶えようと考えていたタイミングで、以前から知り合いだった匠工芸の折井社長から声をかけていただいたのです。
『うちはコスプレイヤー向けに武器を作っている会社だけど、これからは衣装も作っていきたいと思っている。うちで働かないか』という言葉で転職を決意。7年間勤めた公務員を辞めて、匠工芸に入社しました。
ーー匠工芸さんでは、武器だけでなく洋服も制作されているのですね。
お客様はコスプレイヤーさんが多いのでしょうか。
匠工芸ではコスプレ衣装も作っています。衣装はすべて私が担当し、制作しています。
最近では、コスプレイヤーさん以外のお客様が多くなってきました。
例えば、「コスプレはしないけれどもマンガゲームが好き」という20代男性や、「孫のために購入したい」という60代の方。あるいは、「インテリアとして飾りたい」という方もいらっしゃいます。
私が匠工芸に入社して衣装制作を始めたことで、武器や大道具だけでなく、衣装までを含めて、世界観を丸ごと表現できるようになりました。それが、匠工芸ならではの強みになっていると思います。
日本唯一の「武器屋」。自らデザイン・制作する衣装で「動く看板」となる桃井さん
ーーそもそも「武器屋」というジャンルの会社は、他にもあるのでしょうか?
私も最近調べて初めて知ったのですが、法人として「武器屋」を名乗っている会社は、匠工芸だけのようです。
武器制作を始めたのは、代表の折井です。折井は元々、兵庫県高砂市でプラスチック加工所を営んでいました。ファミコン世代の折井は、昔から「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー」などの世界に親しんでいました。
ゲームの中には、さまざまな武器や、「武器屋」が出てきます。そのことを思い出した折井は、「プラスチック加工を生業としている今の自分なら、クオリティの高い武器が作れるはず」と考えて、武器屋を始めたのです。
当初は武器だけを制作し、販売していました。しかし、作った武器を並べているだけでは、その魅力は半減してしまいます。そこで、各武器に合うキャラクターを作り、衣装を着せて売り出すことを提案したところ、それがヒット。武器販売に伴って、衣装部門も広がりを見せていきました。
ーー桃井さんご自身もコスプレイヤーとして活躍されているのですよね。
はい。全国各地のコスプレイベントに、ゲストとしてお声がけいただいています。2025年9月には、北陸最大級のコスプレイベントに参加させていただきました。
自分でデザイン、制作した衣装を着てイベントに行き、お客様と直接お話するのは楽しいですね。実際に作品を見ていただくことで、「匠工芸はこの衣装を作っている会社なんだ」と知っていただけることはとてもありがたく、私自身「匠工芸の動く看板」だと認識しています。
ファンの声が新しい作品を生み出すことも
ーー商品化のアイディアはどのように出すのですか?
桃井さんの作品は何種類ぐらいあるのでしょうか?
商品作りは、スタッフ全員が参加するコンペから始まります。
「こんなアイテムがあったらおもしろい!」
「こんな武器が欲しい」
そんなアイディアをコピー用紙に手描きして持ち寄り、採用されたものをデータ化して商品へと仕上げていくんです。
誰か一人の発想だけでなく、みんなの「好き」が集まって、新しい商品が生まれます。ファンの方の発想が、商品になることもあるんですよ!
私が作ったアイテムは、武器だけでも50種類くらいでしょうか。グッズまで含めると、200アイテム以上になります。
ーー自分が考えたものが商品化されるなんて、ファンとしてはとてもうれしいことですよね!
「匠工芸なら作ってくれるかもしれない」「鈴さんなら、話を聞いてくれるかも」と思ってくださることが本当に嬉しいし、ありがたいことです。
ファンの方のアイディアが商品化されると、「自分の声が形になった!」とSNSで発信してくださり、それを見た他のファンの方が、「私も相談してみようかな」と会いに来て下さる。そしてまた1つ、新しいアイテムが生まれていく。
そんな良い循環が自然と生まれていて、ファンの方にはおんぶに抱っこ、いや、肩車までしてもらっているという感じで、感謝しかありません。
匠工芸のコンセプトは「世の中にワクワクとニコニコを届けること」。1人のファンがワクワクしてくださるということは、同じように感じる人が他にも必ずいるものです。だからこそ、まずは目の前にいる1人のお客様を大切にしたいんです。
高校生に伝えたい。「生きる道はひとつじゃない」
ーー高校生向けにキャリアデザインのお話をされることもあるのだとか。
高校生を対象に講演する機会をいただいています。
私は地元の県立高校を卒業して公務員になり、7年間公務員として働いた後に民間企業(匠工芸)に転職し、副社長を務めています。30歳の時には自分の会社を設立していますので、官公庁、民間企業、自営業と、さまざまな形態で社会と関わってきたことになります。振り返ってみると、少し珍しいキャリアかもしれません。
高校生の方には、「県立高校を卒業した普通の女の子が、色々な出会いを介してチャンスに恵まれ、今ここで活躍できていること」を伝えたいと思い、活動させていただいています。
ーー進路に迷っている高校生にとって、桃井さんのお話は大きな気づきにつながりそうです。
高校生が出会う大人は、とても限られています。家族、学校の先生、バイト先の人程度でしょう。その中に「自由に生きていいんだよ」と言ってくれる大人が1人ぐらいいてもいと思うんです。
私のことを見て、
「あんな感じでも、〝オトナ〟と名乗っていいんだ」
「大学や専門学校に行かなくても、服を作る仕事に就けるんだ」
ということに気づき、「生きる道は1つではない」ということを知ってほしい。
「自由に生きていい」ということに気づくための一助を担いたいと考えています。
私が今、やりたい仕事で生計を立て、自由に楽しく生きていられるのは周りの環境や出会う人のおかげ。できるだけ多くの大人に出会う大切さも、伝えていきたいですね。
今はもう、「やりたいことがないならとりあえず大学に行く」という時代ではないと思うんです。むやみやたらと勉強をするよりも、「自分って何が好きなんだろう」と思考を掘り下げて、自分の力が発揮できることを発見することが、現代の処世術ではないでしょうか。
好きなものを作って、好きなように生きる
ーー最後に、桃井さんが今後挑戦したいことや、将来のビジョンを聞かせてください。
テーマパークなど、多くの方の目に触れる場所で展示、使用される造形物を作るチャンスが増えればいいなと思っています。国内のみならず、海外展開もチャレンジしたいですね。
自分が作ったものに対して、海外の方がどんな反応をされるのかを見てみたいです!
これからも、好きなものを作って、好きなものを売って、好きなように生きていきたい。何歳になっても衣装を着て、みんなに憧れられる存在でいられるように頑張っていきたいと思います。
自分の人生は、自分しか舵を取れません。周りの人が何と言おうと、自分のやりたいことを人生の主軸に置いて、自分で決めることが重要だと思っています。
▶︎匠工芸
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▶︎ワンダーフェスティバル2026summer(7/26(日)幕張メッセにて)
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取材を終えて
「洋服を作りたい」という思いが実現し、日本で唯一の武器屋「匠工芸」で副社長を任されるまでになった桃井さん。自分の「好き」という気持ちを大切にすることや、自分で道を切り開くことの大切さを、改めて考えさせられました。自分が高校生の時に桃井さんのお話を聞けていれば、人生が違ったかもしれません。
海外展開の夢も、桃井さんなら必ず実現されるでしょう。海外で活躍する桃井さんの姿が目に浮かびます。
インテリアとして購入される方も多いということで、近くで催事がある際にはぜひ足を運んでみてください!コスプレした桃井さんに会えるかもしれませんよ!
番組「ウェルチル 私と誰かにちょっといいこと」
関西テレビ放送
毎週金曜よる10時52分放送(関西ローカル)
次回もお楽しみに。