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自分の機嫌は自分で整える!黒川伊保子さんインタビュー(vol.3)

vol.2では、夫婦間、子育てにおける接し方や、自分をリセットするための工夫についてお話を伺いました。vol.3は、女性が自分の機嫌を整える方法や、人生100年時代の生き方、職場や家庭で役立つコミュニケーションのコツについて伺います。

自分の機嫌は自分で取る

――  一番素敵だと思ったのは、黒川さんが「自分の機嫌を自分で取る」ことを実践されている点でした。

黒川:40歳の時にふと降りてきたんです。女性が生きていくコツは「自分の機嫌を自分で取る」ことだと。女性脳を研究していて、そう決めたんですが、実際はなかなか難しいですよね。

でも、誰もが、その切り替えがしやすくなるときがあります。“閉経”です。生殖可能な女性は、生殖を無事に完遂するために「周囲に気遣ってもらい、優遇してもらう」必要があります。だから、脳が本能的に、それを切望します。閉経と共に、それを切り離せるようになるわけ。
人類の生殖リスクは動物界最大、群を抜いて大きいんです。脳が発達した人類は、妊娠出産も容易じゃない。臨月の女性の心臓が送り出す血液量は、通常の1.4倍とも言われています。そのへろへろの身体で出産を乗り越え、その日から、血液を母乳に換えて与え続けます。子どもは歩くまで1年ほどかかるし、独り立ちするまでに10数年もかかる。そんなの人類だけ。優遇されていないと、健康に子どもを残せない。だから、「かまってほしい」「優遇してほしい」と脳が感じることは自然なんです。閉経後にようやく自己コントロールしやすくなります。だから閉経まではできなくて当然です。

―― 自分でできないなら、周りに助けてもらってもいい?

黒川:助けてもらわなきゃダメ。堂々と『しんどいから助けて』と言っていいんです。こういうと、それは子どもを持つ人だけの特権と思う方がいるかもしれないけれど、脳は、生殖本能を一様に発揮します。子どもを持つ、持たないにかかわらず、周囲に気づかってもらうことへの本能的な切望はあるし、そうしてもらっていい。さらに言えば、人類にとって、子どもを持つことはマストでもない。子どもを持たない女性も人類のシステムには必要です。全員が妊娠・出産という高負荷を抱えたら、社会が回らなくなりますよね。動物行動学の竹内久美子先生 も、『不妊が人類の繁殖にマイナスに働く要因なら、何万年も前に不妊の遺伝子は消えている』と言われました。子どもを持たない人の時間や資源の余裕が、人類の繁栄の一助になっているってこと。だから子どもを持つのは義務じゃないし、イライラしても「私が生きていること自体が、人類のため」と思えばいいんですよ。

人生100年時代の生き方とコミュ力

―― 人生100年時代をどう生きるべきでしょうか?

黒川:50歳を過ぎたら、友達は選んでいいんです。会っても不快なのに、付き合いで、という友達はいりません。一緒にいて楽しい人だけを残せばいい。そして趣味を持つこと。心と体を同時に動かす行為は、小脳という脳の中枢を強く刺激します。小脳は体だけでなく脳全体をコントロールする司令塔。ここを活性化するには、思考だけでも運動だけでもダメで、両方が必要です。だからダンスや楽器演奏、刺繍のような「細かい体の動き+心の動き」が最適なんです。できれば仲間と一緒がいいですね。
否定から入る人とは距離を置いたほうが良いですね。もし付き合ってあげるとしたら、第一声ネガティブ禁止。「第一声はいいところを言う」というルールを作った方がいいと思いますよ。

―― 日常や職場で使えるコミュニケーションのコツはありますか?

黒川:日本語の挨拶は母音で始まる言葉が多いですよね。「おはよう」「ありがとう」「おつかれさま」。母音は息を強く使わない自然な音で、言う側も言われる側も親しみを感じます。日本語は母音系(訓読み)と子音系(音読み)を持っていて、母音系は距離を縮め、子音系は距離を取る働きがあります。だから親しくしたい相手には母音系の言葉がおすすめです。

それから「ポジティブサンドイッチ」。悪い結果を伝える時は、前後をポジティブで挟む。『例の件、アドバイスありがとうございました。結果駄目でしたけど、必ず次に活かします』。ネガティブをそのまま言うよりずっと言いやすくて、相手も受け入れやすいです。覚えておくと便利ですよ。

取材を終えて

黒川さんのお話を通して、脳のしくみから人の言動を捉える視点の大切さを改めて感じました。「とっさの反応にも必ず意味がある」という言葉は、人間関係の悩みを軽くしてくれる大きなヒントです。日常の小さなコミュニケーションをどう扱うかで関係が変わるという具体例もとても印象的でした。

思春期の子どもへの寄り添い方や、女性が自分の機嫌を自分で取るための工夫、そして人生を豊かにする心と体を動かす仲間の存在など、どれも実践しやすく前向きになれるものばかり。黒川さんの温かい語り口に触れ、日々の過ごし方が少し軽やかになりそうと感じました。みなさんも実践してみてはいかがですか?

プロフィール

黒川伊保子
人工知能の視点から「ことば」と「人間」の本質を追究し続ける研究者。
株式会社感性リサーチ代表取締役社長として、自然言語解析や脳科学に基づくコミュニケーション分析、ネーミング開発を専門とする。1991年には大型機として世界初といわれる日本語対話に成功し、男女の脳の初期設定や語感構造の違いを発見。語感の数値化技術を確立し、SoyJoy をはじめ多くの企業ネーミングに携わる。

著作活動は1996年より開始。脳科学的アプローチによる『恋愛脳』『夫婦脳』を経て、『妻のトリセツ』がベストセラーに。以降、「トリセツ」シリーズを通して家族関係を解き明かす著作を多数刊行している。研究の総体をまとめた『人間のトリセツ ~人工知能への手紙』では、未来のAIと人間双方に向けた新しい視点を提示。現在は人工知能研究者、随筆家、日本ネーミング協会会長として、多角的に活動している。