命を懸けて何かに熱中している人は、幸せで充実した日々を送っているといえます。そんな熱中ピープルに、人生を楽しむ秘訣をインタビューするこのコーナー。今回はチョコレート業界に革命を起こしているブランド「MAAHA CHOCOLATE」を立ち上げた、田口愛さん(26)。ガーナのチョコレートにこだわり、現地で加工・製造する工場を立ち上げた彼女は、なぜチョコレートに「熱中!」したのか。お話をうかがいました。
ガーナとチョコレートに 思いを募らせ、現地に工場を建設!
ーーチョコレートを好きになったきっかけを教えてください。
子どものころ、テストの前や発表会のときなどにチョコレートを食べて勇気をもらっていました。甘くて元気になるし、生前いつもチョコレートをくれたおじいちゃんが支えてくれているような気持ちになれる、お守りのような存在です。
MAAHA CHOCOLATE 看板商品の「カカオテリーヌ」¥2,997(内税)
ーーガーナに行った経緯を教えてください。
周りに農家さんが多い環境で育ったため、農作物を買うときに「これは誰が作ったものかな?」といつも意識していました。そんな中、チョコレートについて誰が作ったのか考えてみると、よくわからなくて。家族に聞いても誰も答えられず。調べてみると、チョコレートの原材料であるカカオの多くがガーナから日本にきていることがわかりました。そこからガーナについて興味を持ち、さらに調べていくうちに、児童労働や貧困の問題を知りました。ガーナのカカオ農家の年収がとても低いという事実にショックを受けたのです。
日本で私たちがチョコレートを楽しんでいる背景に、ガーナでチョコレートに苦しめられている人がいる。そう思ったら、今までのようにチョコレートを気持ちよく食べられなくなってしまって。ただ、私一人がチョコレートを食べなくなったからと言ってガーナのカカオの生産現場を変えられるわけではありません。そんなモヤモヤとした気持ちを抱えていました。大学生になって自分の生き方を考えたときに、カカオ生産者に直接会ってみたいと思い、単身ガーナに向かいました。
ーーガーナではどのように過ごしたのでしょうか?
カカオを作っている村に行き、そこに住む人たちにチョコレートが好きだと伝えました。そうすれば仲良くなれると思っていたんです。ところが、現地の人はチョコレートに全く馴染みがなく、食べたことがある人はほとんどいませんでした。そこで「チョコレートを私が作るから、カカオを持ってきてね」と伝え、限られた材料で作ってみたんです。すると、すごく喜んでもらえて。中には「今までで食べたものの中で一番美味しい」と言ってくれた人もいて。私と会話ができる人はほとんどいませんが、その瞬間みんなと自然とコミュニケーションを取れたんです。ジャングルの中でほぼ自給自足の生活をしながら、2ヵ月間現地の人たちと一緒に幸せな時間を過ごしました。
ーー2ヵ月間ガーナで過ごしてみて、どのような課題を感じたのでしょうか?
帰る日が近づくにつれ、「ガーナに来た2ヶ月をただの楽しい思い出で終わらせて良いのか?」「もっと彼らと人生をかけて関わりたい」と思うようになりました。また、カカオの取引価格が低いことに課題を感じ、加工して販売してガーナの地にチョコレート産業を生み出したいと考えていました。そこで「絶対に戻ってくる!チョコレート工場を作ろう!」と現地のみんなに約束をして、一旦日本に帰りました。
チョコレート工場がガーナの人たちの誇りとやりがいに
ーーその後、どのようにガーナに工場を設立したんでしょうか?
現地の村の人たちを集めて手伝ってもらいました。チョコレート作りについても学び直しましたし、日本でクラウドファンディングをしてお金を調達しました。
ーー工場を建設した結果、現地にどのような変化が起こりましたか?
愛情をこめて作ったカカオによって、美味しいチョコレートができているということに誇りを持ってくれる人が増えました。また、これまではカカオを収穫できる時期は限られていて、他の期間は何か仕事をしたくてもすることがないという状態でしたが、工場ができてからはどんな時期でも仕事ができるようになり、喜ばれています。子育てしかやることがないと思っていた女性たちが「自分にもできる仕事があってうれしい。働いたお金で子どもを学校に通わせたい」と言ってくれたこともあります。子どもたちも「将来はチョコレート工場で働きたい!」と言ってくれました。
カカオを砂糖でキャラメリゼした新商品。浅煎りのカカオの少し酸味のある新しい味わい
ーーチョコレートへのこだわりを教えてください。
スーパーなどで売っているチョコレートは一般的には香料などいろいろなものが入っています。それに対して、私たちのチョコレート生地はカカオ豆のほかは砂糖しか使っていないので、カカオの本来のおいしさがダイレクトに伝わります。「チョコレートを通して世界に思いを馳せてもらいたい」そんな思いをこめて、ガーナ語でこんにちはを意味する「MAAHA」をブランド の名前につけました。今後は、カカオを採った時期や年、生産者による味の違いなどがワインのように意識される文化を徐々に創っていきたいと考えています。
幸せな気持ちで熱中できることを見つけて、ご機嫌でいる
ーーガーナで感じたウェルビーイングはありますか?
ガーナに行く前は「貧しい国だし、助けてあげなくてはいけない」と思っていました。実際に行ってみると、動物の鳴き声や水の音など、自然の大合唱に包まれてとても豊かな環境なんです。そして、住んでいる人たちがみな陽気で、日常の中にある小さな幸せに対するセンサーがすごく高くて。というのも、車が増えたことで交通事故が増えたり、病気にかかっても薬を買うためのお金がなかったりと、彼らは常に死と隣合わせな生活を送っています。そのため、自分自身が元気でいること、仲間や家族が無事に生きていること、ジャングルでお芋が取れて食べられることなどへの感謝の気持ちが大きいんです。豊かさとは、決して金銭的なことだけではないんですよね。
ーー他にガーナの人たちから学んだことはありますか?
工場の基礎工事をするときに地面から大量の芋が出てきたことがあって。それを見つけた工事の担当の人たちは芋を掘ってかついで、全員家に帰ってしまったんです。「工事初日なのに芋のために家に帰るなんて!」と怒っていたら「家族と美味しいご飯を食べるために仕事をしているのだから当たり前だろう。君はなんのために仕事をしているの?」って言われたんです。何があっても彼らは自分自身の幸せの軸がぶれないんですよね。すごく尊敬しています。
ーー田口さんがウェルビーイングに過ごすためにやっていることを教えてください。
ご機嫌でいることを意識しています。自分が幸せに熱中できることを見つけて、それを通じていろんな人を巻き込んで、巻き込まれた人たちも幸せになってほしいです。ガーナに行く度に、前回行ったときに仲良くしていた人の誰かが病気や事故で亡くなっていて。自分の周りにいる大切な人が生きていることは当たり前じゃない。だから、今あるものに感謝して、後悔しないように楽しく生きようと思います。
ーー伝えたいことと、これから挑戦していきたいことを教えてください。
なんでも発信できて、いろんな人から応援してもらえる時代なので、自分らしい人生を歩む人が増えたら良いと思います。また、ガーナの人たちに教わった素敵な生き方や考え方を世界中の人に届ける取り組みを続けていきたいです。
取材・文 ゆう